素晴らしい衣装をありがとうございました
朝、寝癖全開でリビングに現れた私に、千空は呆れたように眉を上げた。
「アラームどんだけ鳴らしてんだ」
「4回だからまだセーフ」
「いや十分アウトだろ」
「5回目鳴る前に起きたじゃん……」
そうぼやきながらソファに沈み込んだが、洗面所からネクタイを締め直しながら出てきた千空を見て、目が覚めた。
「は……?」
いつもの仕事着じゃない。
ワイシャツにタイトなネクタイ、そして……見たこともない仕立ての良い紺地にストライプが入ったジレを纏った彼がそこにいた。
よく見れば私が沈んでいるソファーの背もたれには、セットアップのジャケットまで掛かっている。
「……千空、なにその格好」
「あ?あー、これか。今日の取材の衣装だって昨日龍水が置いてった」
千空は普段着慣れないジレに窮屈そうにする。だが私の目は千空の細身の腰に釘付けだった。
ジレによって強調されたシルエットに、私の心拍数が異様に跳ね上がる。
「っ……すご、まって、ジレ着てるの初めて見た。尊すぎる……」
「はあ?なんだそりゃ」
「腰細っっ!最高、まって……スマホ、スマホどこ!?撮らせて!無理、最高すぎる、うちの旦那かっこよすぎてバグる。国宝だよ、国宝……っ!龍水さんにドラゴ払わせて!!言い値で払う!!フランソワ!!小切手だ!!」
必死にスマホを探して狼狽える私を見て、千空はやれやれと言わんばかりに笑う。
「……テメーは、相変わらずよくわかんねえとこに刺さってんな」
「刺さりすぎ!!重症だよ!!千空、今日その格好でラボに行くの? 全員千空の腰回り見て仕事にならないよ!!それ!!」
「アホか。騒ぐのはテメーだけだろ」
そう言ってジャケットを羽織ろうとする彼の背中と腰のラインにまたしても悶絶する。
「……とりあえずその伸びきった顔どうにかしろ。写真撮ったら満足か?」
千空は逃げようともせず、ネクタイを直しながら少しだけ意地悪な笑みを浮かべた。
「ジャケット脱いでジレだけになってくれる?」
「却下。ジャケット着る前に言え」
「じゃ帰ってきたらジャケット脱いだところ撮らせて」
「……嫁が変態すぎてヤベェ」
「変態じゃない!千空オタクなだけ!!」
「余計ひでぇな」
その日の夜、私は龍水さんに「素晴らしい衣装をありがとうございました」と心からのお礼メールを送った。