日常ログまとめ①
●リモコン
「……千空、エアコンのリモコン知らない?」
リビングに響く声に、千空が顔も上げずに答える。
「……またか」
「またってなに?リモコン史上初だけど……?」
「リモコン史上初とかリモコンはそんな帯いらねえだろ。リモコン史上は初でも、テメーの、千空あれ知らない?はログ多すぎてバグるレベルだぞ」
「失礼な!自分で回収してるじゃん。この間Suicaだってちゃんと見つけたし」
「へーへーそれはよーございました。んでエアコンのリモコンどこだよ」
「それを聞いてるんじゃん!!寒い!はやく見つけないと凍えちゃう……」
「なんか着ろよ。そんな肩丸出しだからだろ?」
「着たら負ける」
「誰にだよ…」
「えー、どこだろほんと……エアコンの温度下げたの私なんだよね……」
「100億%そうだろうな。俺はいま書斎から出てきたからな」
「えーまってまって、なんか引っかかる。このへん、あたまのこのへんに、アホほど重要なヒントが……」
「……あるといいな」
「あっ!!!わかった!!」
玄関へと走っていく香穂
「あったーーー!さっき玄関で新しいスニーカーの紐通したんだった!」
「それでなんでリモコンなんだよ」
「玄関暑かったから、ここリビングの扉開けて、エアコンの温度下げて……脱いだ………あ、上着もここにある…寒い、着よう」
「リビングで紐通せば良かっただけじゃねえのかこれ」
「……!ほんとだ!!!!なんだもっと早く言ってよ!!!」
「……」
(またやるな、こいつ)
●ふつうとは
「千空!ちょっとここ来て」
ソファーに座った香穂が千空を呼ぶ。
「あ?なんだ?」
濡れた手を拭き、香穂のところへ来る千空。
「足の爪!切って!」
「は?なんだ急に…誰がやるかよ」
そう言いながらも、一瞬だけ考えるそぶりをする。しかしすぐに引き出しから爪切りを取り出し香穂の前に跪く千空。
「あー、めんどくせぇな…ほら、足出せ」
「……え、まってほんとに切ってくれるの?」
「…テメーが切れって言ったんだろうが」
千空は慣れた手つきで香穂の足を持ち上げ、爪を切り出した。
手元からパチンパチンと軽快な音が鳴る。
「…普通、人の爪切るの嫌がらない?しかも足だよ?」
「……テメーの言う普通って誰のことだよ」
「誰って…」
「知ってるやつに居るのかっつてんだ」
「…ゲンくんとか?」
「アイツは仮に自分の女相手なら、喜んで切ると思うぞ」
「龍水さんとか…」
「間違いなく、美女の頼みを断る理由はない!とか言うな。まあ、羽京もクロムも頼めばやるだろうな」
「…あー、そうかも………あっ!!わかった!!」
「あ?」
「陽くんとか!?」
「………普通以前に、陽に爪切らせようとするヤツがヤベえだろ…」
頭の中でウェーーイの声が響く。
「………たしかに…」
●おにぎり
深夜、帰宅した千空は真っ先に寝室へ向かう。
ベッドで眠る香穂の頭をひと撫ですると、そのままリビングへ戻り、ネクタイを緩めた。
「……さすがに腹減ったな」
仕事で食事を取る時間がなかったのを思い出し、キッチンへ向かう。
そこで目に入ったのは、ラップに包まれた大きなおにぎりと、メモ書き。
[i:おつかれさま
お腹空いてたら食べてね
(残ってたら朝食べるから
無理しなくていいよ)]
「……でけえな」
思わず小さく笑う。
「ま、おありがたく頂くか」
一口かじる。
「……唐揚げ、卵焼き……」
中に入っているのは、覚えのある味。
「……弁当のおかずか」
ふ、と息を吐く。
「うめえ」
静かなキッチンに、独り言が落ちる。
手の中の温もりは、もうすっかり冷めているのに。
──不思議と、悪くない。
●つまみ食い
「めちゃいいにおいするーー!」
匂いにつられて香穂がキッチンに来る。
「唐揚げだ。昨日から浸けてたからな。ククク、旨味が凝縮してやがるぜ」
「やったー千空の唐揚げすき!味見味見!」
つまもうとする香穂の手を叩く千空。
「やめろ、テメーは味見の回数が味見じゃねえんだよ」
「…だめ?(上目遣い)」
「…………一個だけだぞ」
「やった!」
香穂がひょいっとつまんで口に放り込む。
「おいひ…」
千空はフッと、小さく息を吐く。
「…千空、もういっこ…」
「…だめだ。あとは夕飯で食え」
「……たべたい、なあ?」
「…………はーーーー。ったくしょうがねえな。口開けろ」
「あーーー」
ぽい
「んんんー!はいほーー(最高)」
「前払いだぞ。あとでちゃんと働けよ」
「ちゃんとやるもん」
●失敗飯
「……不味くはねぇけど、美味くもねえな」
千空が箸を止めて、ぼそっと言う。
「だよね!?」
思わず食い気味で返した。
「なんでだろ?ちゃんとレシピ見て作ったのに…」
「レシピ『見た』?」
「分量もか?」
「見た見た、ちゃんと量ったよ」
「……だからじゃねえか?」
「なんで!?」
即答すぎて意味がわからない。
千空は面倒くさそうに頬杖をついたまま、こっちを見る。
「テメーはな、再現性低い目分量のほうが味に関しては正確だ」
「は???」
「同じ材料で、明日レシピ見ずに作ってみろ」
「えぇ……?」
納得いかないまま、とりあえず頷く。
*
翌日。
「……できた」
昨日と同じ材料。
でも今日は、分量は一切見てない。
「……どう?」
千空が一口食べる。
「……」
一瞬、黙る。
「……分量見たか」
「見てない。テキトー」
「……再現不可ってのが引っ掛かるが」
もう一口食べる。
「……うめえ」
「なんでだろね?」
香穂は首をかしげた。
「さあな」
千空は、ちょっとだけ楽しそうに笑った。
▼back