1回だけって言った
「千空、……むり、っ……!1回だけって言った……!」
押し返そうとしても、体に力が入らない。
逃げるどころか、触れられるたびに余計に力が抜けていった。
「あ?言ったか?んなこと」
すぐ近くで、低く笑う声。
「言ってる……っ、ちゃんと、言った……!」
「覚えてねえなぁ」
「もう……なんでこういうときだけ記憶力ゼロになるの……っ、ん……っ」
言い返そうとしたのに、途中で声が跳ねてしまった。
千空はそれを見逃すはずもなく。
「……ハッ。余裕ねぇじゃねえか」
指先が、わざと確かめるみたいにゆっくりなぞる。
逃げ場なんて最初からないのに、さらに追い詰めるみたいに。
「っ、……やだ、もう……っ」
「悪くねえだろ?」
軽く言うくせに、手は止まらない。
むしろ、さっきよりも確実に、狙ってる。
「……っ、でも、1回って……」
「……あー、そうだな」
一瞬だけ間があって。
そのまま、ぐっと距離を詰められた。
「1回で終わるとは言ってねえしな」
「……っ、……!」
理解した瞬間、息が詰まって、声が出ない。
さっきまでの1回が、どこまでのことを指してたのか。
そのズレを、今さら突きつけられる。
「……たち、悪すぎ……!」
かろうじて絞り出した声に、千空が喉の奥で笑った。
「ハッ。テメーが勝手に勘違いしてただけだろ」
そのまま、逃げようとした腰を軽く押さえ込まれて。
「……ほら、もう1回いくぞ」
逃げ場を塞ぐみたいに、低く囁かれる。
「や、……むっ……」
拒否したいのに、声は続かない。
触れられるたびに、さっきの余韻が引きずり出されて、身体の方が勝手に思い出してしまうのだ。
「……無理じゃねえだろ」
耳元で落ちる声。
「ちゃんと反応してんじゃねえか」
「……っ、ちが、……っ」
否定したいのに、言葉より先に声が漏れてしまう。それを聞いた千空が、満足そうに口角を上げた。
ククク、と低く笑って、
「言葉と身体、どっち信じりゃいいかなんて、100億%明白だろ」
そのまま、拒否も、理屈も、全部置いていくみたいに、さらに深く引き込まれていく。
「……っ、せんく……っ」
呼んだ名前が、ちゃんと届いたのかはわからない。
ただ、次の瞬間にはもう、
さっきよりも逃げ場のないところまで、連れていかれていた。
2026/05/03
2026/05/03