一瞬だけ、高く

押し倒されたまま、逃げ場がない。 視線が近い。 息が触れる距離で、私は千空にじっと見下ろされていた。 「……っ、……ん……」 思わず声が漏れそうになって。 慌てて自分で口を押さえたが、指の隙間から、どうしても息がこぼれてしまう。 それだけで、余計に意識がそこに集まった。 「……隠す気あるのか?」 低く落ちる声。 「……っ、ある……」 うまく言えない。 押さえた手の奥で、呼吸がぐちゃぐちゃになる。 赤い瞳が、視線だけで全部拾い上げるみたいにただじっと見つめている。 逃がしてくれる気は無さそうだ。 「……っ!」 「……ハッ。そんな必死に隠して、意味あんのかよ」 低く呟いて、顔を寄せる。 そして、口元を塞いでいるその手の甲に、そっと唇を落とした。 逃げ場がないまま、千空の指がゆっくりとなぞった。 「ひ……っ」 びくり、と背中が跳ねる。 反射みたいに脚に力が入って、爪先がぴんと伸びた。 その反応を見て、千空がわずかに口角を上げた。 「……こらえんなよ」 わざと、もう一度なぞる。 「……え、っ……なに……わかんない……」 「……良いなら、良いって言え」 「……わかんないってば……っ」 言葉は否定なのに、声は隠しきれていない。 千空はそれを聞きながら、小さく息を漏らした。 「……ククク。バレてんだよ」 「……むり……っ!」 否定したはずなのに。 その直後、抑えきれずに声が跳ねた。 一瞬だけ、高く。 自分でも止められない音が、逃げるみたいにこぼれる。 それを聞いた瞬間、千空の口元がわずかに歪む。 手を外され、そのまま、奪うみたいに唇を重ねた。 浅く、じゃなくて。 逃がさないみたいに、深く。 こらえていた呼吸が、一気に崩れる。 「…ん、……ふっ……」 「……今のが答えだろ」 見透かしたような声。 千空の指先は止まらないまま、ただ確かめるように動いていて。 その熱に引きずられるみたいに、思考がゆっくり溶けていく。 「……香穂」 名前を呼ばれて、ぼんやりと目を開ける。 すぐ近くで、千空が見ていた。 「……っ」 視線が合った瞬間、また息が詰まる。 千空はそのまま、わずかに目を細めて。 「……そそるじゃねぇか」 低く笑って、もう一度、唇を重ねた。
2026/04/30

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