深夜料金
深夜の寝室。
静寂の中で聞こえるのは、千空の規則正しい寝息だけだ。
ふと目が覚めると、隣には夫の穏やかな寝顔がある。
起きてるときは、あの赤い瞳がすぐにこっちを捕まえるのに。
閉じているだけで、少しだけ遠く感じる。
けれど、この無防備な顔を独占している事実に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
千空の頬にそっと指先を滑らせた。
いつも私が眠りに落ちる時、彼が私にしてくれるように。
頬から後頭部、首筋へ。
長いまつ毛が、わずかにピクリと揺れる。
私は身体を少し起こして、額、まぶた、頬へと順番にキスを落とす。
最後に、少しだけ意地悪く、耳元を甘く食んだ。
「……口には、くれねえのか」
低く、掠れた声が耳に届く。
目は閉じたままなのに、完全に起きてる。
「……どうしようかな」
唇を指でなぞると、そのまま軽く食まれた。指先にじんわりと熱が移り、喉の奥が鳴る。
ゆっくり目が開く。
夜闇の中でも鮮やかな赤い瞳に、まっすぐ捕まえられる。
(あぁ、この目が好きだ……)
背中をなぞるみたいに、ぞくりと熱が上がる。
千空は私の手首をそっと掴むと、私を導くようにゆっくりと自分の方へ引き寄せた。
「……深夜料金で割増だ。同意の上だよな?」
千空は困ったように、でも嬉しそうにふにゃりと口元を緩めた。
そんな顔を見せられたら、もう降参するしかない。
「もう……千空こそ、すぐ寝かしつけてくるくせに」
「あ゛ー、しょうがねぇな。テメーが先に仕掛けたんだろ」
千空はそう言って、私の腰から背中を優しく撫で上げ、私はたまらず彼の首に腕を回した。
「眠れなかったって朝泣くなよ」
「……うん、いいよ」
喉の奥で笑う気配のあと、溶け合うようなキスを交わした。
深く、ゆっくり、逃がさないみたいに。
*
ベッドの上、私たちは向き合うように座り込んでいた。
互いの肌の温度を確かめるようにキスを交わし、手は相手の身体を熱心になぞる。
私は千空の耳元に唇を寄せると、しつこいほどに耳を甘噛みした。
彼がぞくりと肩を震わせるのが、肌を通じて伝わってくる。
「……今日はそこがお気に入りか?」
千空の掠れた声が耳元で響く。私は耳を噛んだまま、わざと掠れた声で囁いた。
「……みみ、すき?」
「……しゃぶりながら喋んな」
小さく笑って、また触れる。
耳から離れ、そのまま千空の顎、首筋へと舌を這わせた。
彼の肌に熱を刻むたび、千空は喉の奥で低くうめく。
「……首は噛むなよ……明日、見えたら面倒だ」
「そんなにいつも噛んでない」
「いや噛んでるわ……無意識かよ」
文句を言いながらも、千空は私の腰を引き寄せて抱きしめる。
私は首筋から鎖骨へと滑るように唇を落とし、最後に甘くカプッと歯を立てた。
「……イテッ……まあ、そこならいいか」
千空はそう言って、どこか嬉しそうな呆れ顔で笑った。
千空に触れられてる場所が、全部わかる。
でも、選ばれるのは見えないところばかりで。
ゆっくり、印をつけられていく。
「……今日はここにしといてやる」
見えそうで、見えない場所。
触れられた瞬間、息が揺れる。
彼がそこに唇を押し付け、印を刻む。
私は彼の熱が逃げないよう、首に腕を回した。
自分には何も残させないくせに、私にはくっきりと残していく。
その矛盾した愛し方に、私は何度でも溺れていく。
2026/03/08
2026/03/08