半夏生のたこ

「なんか、会社の人に今日タコの日だよって言われたんだけど?」 彼女がガサガサと音を立て、スーパーのレジ袋からタコの切り身を取り出した。 「タコの日……?あー、半夏生か」 「はんげしょう?」 「こっちはあんま馴染みねえからな。関西の方の習慣だ」 千空が、稲の根がタコの足みたいにしっかり地面に張るようっつー豊作の願掛けだな。と説明する。 「へー、それでタコ……」 「で、どうすんだそのタコ」 「うーんお刺身用だからそのまま食べられるんだけど……あ、せっかくだからたこ焼きにしない?」 「たこ焼き器もねえのにか」 「……じゃあ普通のホットプレートで」 「タコ入りのお好み焼きだろそれ」 「……そうかも」 まあいいや!粉もの食べたい気分!と、言いながら彼女は踏み台を取り出し、吊り戸棚からホットプレートを取り出す。 千空もそんな様子に苦笑しつつ、彼女からホットプレートを受け取った。 じゅうじゅうと具を含んだ液状の小麦粉が音を立てる。 ホットプレートの上では(自称)たこ(入りのお好み)焼きが香ばしい匂いを放っている。 「タコは基本的に、這って移動するほうを好むって話知ってるか?」 「え?急にタコの豆知識?」 千空がひょいとお好み焼きを返す。 「タコは泳ぐときに、全身に血を送る心臓の働きが止まる。そのせいでタコは疲れやすいから海底を這って移動する」 「……なんとも不憫な生き物だね」 「お金稼ぐ〜!って仕事行って、帰ってくると床に伸びてるテメーも似たようなもんだろ」 「えっ?もしかして、わたしたち、似てる?」 彼女が残りのタコをパクリと食べた。 「吸盤みてえに一度ひっついたら、なかなか離れないところもな」 「……それは千空がハグしやすいサイズなせい」 「細えってか?」 「言ってないってば!ちょうどいいってこと」 そんな軽口を言っている間にホットプレートの中身が完成する。 「ほら出来たぞ、お好み焼き」 「たこ焼き」 「タコ入りのお好み焼きだろ」 「……略してたこ焼き」 「だいぶ含みの多いたこ焼きだな」 そう言いながらも、千空は慣れた手つきで皿を2枚取り出した。 ソースをかけ、鰹節を散らせば、見た目はともかく匂いだけは立派なたこ焼きだ。 「ほら、千空。たこ焼きできたよ」 「だからお好み焼きだっつってんだろ」 まだ言い合いながら、二人揃って箸を伸ばす。 「おいし!!」 「たこ焼きだな」 「ほら!だから言ったじゃん」 「たこ入りのお好み焼きでもある」 「まあ、それは、そう」 結局、たこ焼きなのかお好み焼きなのか決着がつかないまま、ホットプレートの上はすっかり空になった。 「はー、半夏生のタコ、おいしかった。こっちでも、もっと広がればいいのに」 「タコ食いてえだけだろ。つーか、食ってすぐ転がんなよ」 「タコだから……食べる方に集中したからもう体力終了。千空ハグして」 彼女がラグの上で両腕を広げる。 「却下」 「ケチ」 彼女は広げていた腕をぱたりと落とし、そのままラグに頬をつけた。 「……ほんとに電池切れやがった」 呆れた声が頭上から降ってくる。 「千空言ったじゃん。タコは泳ぐと疲れるって」 「テメーは泳いですらねえだろ」 「仕事して、買い物行って、ごはん食べて……」 急に言葉を切ったかと思うと、彼女はおもむろに立ち上がり千空のそばへと寄る。 そしてぎゅっと千空にしがみついた。 「自分でハグすればいいんだ。タコだから」 「んだそれ」 千空は呆れたように笑った。 それでも、身体に巻きついた腕をほどく気はないらしい。 彼女もそれをわかっているのか、楽しそうに笑いながらさらにぎゅっと腕に力を込めた。 結局、吸盤のようにひっついて離れないのは彼女だけれど、それを引き剥がす気がない千空も大概だった。
フォロワーさんとXでお題交換したうちの、タコを使って書いたお話。

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