良い家だね
「ただいま……って、靴でっか!?なに!?」
外出から帰宅し玄関ドアを開けて真っ先に目に飛び込んできたのは大きすぎる靴だった。
丁寧に揃えられた大きすぎる靴に、香穂が思わず声を上げる。
「何センチくらいあるんだろ……顔より大きくない??というか誰?」
自分よりも千空よりも、遥かに大きい靴を横目に廊下を進む。
来客であればリビングに居るはず、と恐る恐る扉を開けると──
「ただいま……あっ、司さん!?」
「やあ、香穂。久しぶりだね」
獅子王司が、ソファに腰掛けてコーヒーを飲んでいた。
「近くを通りかかってね。千空に連絡したら、茶でもどうだと誘ってもらったんだ」
「まあ、たまにはな。俺と司の組み合わせじゃ、外で茶飲むには目立ちすぎんだろ」
「あー、たしかに」
「香穂は仕事帰りかい?」
「ううん、今日は休み!ちょっと出かけてた」
「……ああ、そうか。祝日だったね」
香穂は荷物をリビングの隅へ置き、空いていたスツールへ腰を下ろした。
ちょうどそのタイミングで、千空がマグカップをひとつ持ってくる。
「ほら」
「ありがと」
コーヒーを受け取りながら、改めてリビングを見回す。
ソファには司と千空。
その向かいに自分。
見慣れた部屋のはずなのに、どこか妙な光景だった。
「……なんか司さんがうちにいるの、まだ慣れないなあ」
「慣れる必要あんのか?」
「だって、テレビの中の人がリビングにいる、みたいな感じしない?」
「いやしねえわ。飽きるほど見た顔だろうが」
「そうだね。復興前、あんなにみんなで一緒に行動してたのにかい?」
うーん、と声を出しながらコーヒーを啜る。
「……いや、そうなんだけど……なんか、合成っぽくない?」
「は?」
「司さん大きいから、なんか全部ミニチュアに見えるっていうか……」
くつくつ、と司が小さく笑う。
「……テメーそれ、遠回しに俺が小せえって言ってんのか?」
「えっ!?言ってないよ!?千空、小さくないじゃん!」
「……ほーん」
「ほんとだよ!?」
「まあそういうことにしてやるか」
「あっっ!そうだ司さんクッキー食べません!?クッキー!!お茶請けに!!」
「うん、いただこうかな」
「用意しますね!」
勢いよく立ち上がりぱたぱたと駆けていく香穂を見て、司がふっと目を細めた。
「……千空」
「あ?」
「良い家だね」
一瞬だけ、千空の動きが止まった。
それから口元をわずかに歪める。
「だろ」
「ああ。落ち着く」
「千空!まって!クッキーない!!」
キッチンの方から、香穂の騒がしい声が聞こえてくる。
「いや昨日テメーが自分で食ってたろ」
「えっ!あー!そうだった!!司さんごめん!クッキーない!プリンでもいいです?」
「ああ、構わないよ」
「このプリンも美味しいから!」
「もう食ったのかよ」
「うん、昨日ね?」
「クッキーも食ったのにか」
「別腹だから」
「どっちも同じ腹だわ」
司は小さく笑い、コーヒーへ口を付けた。
なるほど、とても良い家だ。
2026/04/14
2026/04/14