毎日、七夕。
「なんか、毎日七夕みたいだよね」
「あ?なにがだ」
石神村は現代のせわしない空気とは違い、ゆったりと時間が流れているようだった。
香穂は、すっかり夜の定位置となった天文台で、皆で作った手作りの天体望遠鏡をのんびりと覗く。
「星、すっごい見えるじゃん? 天の川って七夕のときによく見える気がしてたけど、なんかストワだといつでもきれいに見えるよね」
「旧世界でも言っただろ」
「え?なんか言われたっけ?」
香穂は望遠鏡の前をそっと譲り、その場にぺたりと座り込む。
冷え始めた床に両手をついて見上げた夜空には、細かな星々が隙間なく散りばめられていた。
千空は香穂と入れ替わるように、望遠鏡の接眼部へ目を寄せる。
「天の川が七夕だけ特別見えるわけじゃねぇ、って前も言ったぞ。街の灯りがねえ場所なら、条件さえ合えばいつでも見える。むしろ昔の人間にとっちゃ、今見えてる景色が当たり前だったってわけだ」
「……今は、私たちのほうが昔の人間なんだけど」
接眼部から目を離さないまま、千空が口の端をわずかに上げた。
「文明が発達するほど星は見えなくなるっつー、皮肉な話だな」
「このまま科学王国が発展すると、また天の川も見えなくなるってこと?」
千空は接眼部から目を離し、床に座る香穂へ視線を向けた。
「街灯を増やせばな」
水力発電のおかげで、夜の暗闇にやわらかな灯りがともるようになった景色を見つめる。
「えー……暗いのも嫌だけど、星が見えなくなるのはちょっと寂しい」
「文明も星空も欲しいってか」
「欲しい!イコール正義!でしょ?」
龍水のようにパチンと指を鳴らす香穂を見て、千空が鼻で笑う。
「ハッ、違いねえ」
千空が彼女の横へと腰を下ろした。
「あ!わかっちゃった!だから天文台って山の中にあったりするの?」
「……めずらしく冴えてんな。正解だ100億万点やるよ」
「めずらしくってなに、めずらしくって」
ぶーぶーと頬を膨らませる香穂の頬を、千空が親指と人差し指で挟み、むにっと潰す。
「旧世界の科学館覚えてっか?」
「覚えてる。夏休みよく行ったよね。涼しいし、宿題させてくれるし、千空と大樹と入り浸ってたし」
「あそこも上に天文台あったからな」
月の光を浴びた手作りの望遠鏡が、星に負けずきらきらと輝く。
「……あったっけ?」
「ある」
「おぼえてない……」
「……だろうな」
相変わらずな物言いに、千空は苦笑する。
「天の川が毎日見られるって、なんか贅沢だよね」
香穂の視線を追うように、千空も夜空へ視線を戻した。
「もし千空と1年に一回しか会えなかったらどうなっちゃうんだろ……」
「……年イチとなると、テメェの体調管理が引っ掛かるな……遠隔か?」
「遠隔って……え、モールスとか?」
覚えとけ、と中学時代に強制取得させられた記憶が蘇り、香穂はぶるりと身震いした。
「オーバーヒートが面倒だな」
「面倒って……!」
「石化でもしてねえ限り、100億%テメェが1年持たねぇ」
香穂は千空を見て、小さく唇を尖らせた。否定したいのに、思い当たる節が多すぎて何も言い返せない。
「いや、そもそも会えねぇ前提で考える意味がねぇ。会う手段を作るほうが100億倍早ぇわ」
「デタ!効率厨!!」
香穂は思わず吹き出し、再び天の川へ視線を向ける。
「織姫と彦星って、よく耐えられるよね」
「そいつらの事情は自業自得だろうが」
「もー、そういう事じゃないの。でも、私だったら1年も会えなかったら無理」
「……」
「千空?」
千空は答えず、夜空を見上げたまま小さく鼻を鳴らす。
「だから1年持たねぇっつってんだ」
「……そうかも」
香穂はくしゅりと目をこすり、小さく欠伸をひとつ漏らす。そのまま千空の隣へごろんと横になると、満天の星空を見上げてふにゃりと笑った。
「寝んなら下行くぞ」
「でも千空、まだ空見たいでしょ?」
「まあ、な」
「……ここで寝ていい?」
「明日、背中痛えって文句言うなよ」
「それは寝て起きてから考える」
千空が、隅に畳んであった毛皮を雑に香穂に掛ける。
「アホか」
毛皮からぴょこりと出た頭を千空が雑に撫でると、香穂が嬉しそうに目を細めた。
「さっさと寝ろ」
「うん、おやすみ千空」
「ああ、また明日な」
1年に一度を願う必要なんてない。明日もまた、その続きを見上げられるのだから。
天の川は今夜も静かに二人の頭上を流れていた。
2026/07/07 七夕🎋にXへ掲載したお話
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