千空さんは都合がいい

「千空のアホ!ドーテー!科学バカ!!」 「おい!待て!!なんだその貶し文句!!」 頭きた。もうやってられない。 別れる!絶対別れる!! 石神千空と中学時代から付き合ってる。3700年間石だったけど、復活して再会して、別れようっては言われてないから“付き合ってる”で、いいと思う。 付き合ってるんだし、ふたりきりのいい雰囲気で、ちょっとくっついてみたりしてみたら拒否されなかった。 やったあ。これならもう少しいいかも。って抱きついてみた。これも拒否されなかった。 もう少し欲しくなって、欲を出して。 キスしてみちゃおっかなって首に腕を回したら、顔を思いっきり押して剥がされた。 拒否された!? えっ、今すごくいい雰囲気だったよね?ハグはOKでキスはNGなの!? もう高校生だよ!?いや、もう学校ないけど!世界は石しかないけれど!! 「……千空、なんで?だめ?」 「ダメだ」 「なんで?キスしちゃダメ?」 「ダメだ」 もしかして誰かに見られたらイヤとか? たしかに石神村はプライバシーなんて言葉とっくに滅びた村だけど!! もしかして、ゲンくん見てる? ……居ないよ。いやあの人のことだからわからないけど。 「……恥ずかしい?」 「ちげえ」 「じゃなんで拒否?」 「恋愛脳は封印だっつたろ」 付き合ってるのに? 恋愛脳ってどこからどこまでが恋愛脳?? 「ハグは?」 「OK」 「手をつなぐ」 「OK」 「えーと、キスはだめ」 「そうだな」 「じゃあえっちは?」 「もっと無し」 なにそれ、中学生?中学生のお付き合い? 「わたしたち、付き合ってるんだよね?」 「あ゙ー。そうだな」 「え?なにそのあ゙ーって、めんどくさいっておもった?」 「思ってねえ」 ハグして手をつなぐだけなんて、石化前から進んでないじゃん!! 「わかった。こんなめんどくさい彼女は、千空にはいらないと思うから別れよう」 「は?なんでそうなる」 「わたしたち、別れましょう」 「別れねえ」 なんなの!なにがしたいの石神千空!!腹が立ってきた。 「千空のアホ!ドーテー!科学バカ!!」 石神村中に聞こえそうな大きな声で叫ぶと、わたしは板張りの質素なラボを飛び出す。 「おい!待て!!なんだその貶し文句!!」 後ろの方で千空が叫んでる。でも振り返りもせず全力疾走した。 どうせ千空はわたしには追いつけない。 あんなヒョロガリ巻くなんてお手の物。走り出してしまえばこっちのものだ。 そう思っていたのに。 急に足になにかが巻き付いた。そのせいで足がもつれる。 倒れる最中、周りの景色がスローモーションのようにゆっくりと流れていた。 転ぶっ! 幸い、青々と草が茂る場所だった。 これなら転んでも痛くないか。そう考えた直後草むらに勢いよく倒れ込む。 なかなかの速度で走っていたせいか、全然痛い!!膝痛い!!なんなら口に草も入った!!ペッペッ 「いたいーー!!」 「ぜぇ…てめーが!はしっから!」 息を切らしながら千空が追い付いてきた。 もつれた足を見れば、足首に重りを結びつけた紐が巻き付いている。これで転んだんだ!絶対千空!! 「なにこれ!!バカ千空!!取れない!!」 「巻き付いてるだけだ……キレんな。落ち着いて、やれば、外れる」 千空は、まだ少しぜえぜえ言いながらしゃがみ込むと、わたしの足に絡みついた紐を解き始めた。 「こんなの、鹿とかイノシシとか捕まえるやつじゃん」 「んな全速力で走りやがって。この牛め。こうでもしねえと追いつけるわけねえだろ。ヒョロガリナメんな」 自分でヒョロガリをドヤって言うの、どうなの?? 千空の少し荒れた手がわたしの足首を掴み、もう片方の手の指先が少しずつ紐をほどいていく。 「触んのもイヤなんじゃないの」 「んなわけねえだろ」 解けていく紐をぼんやりと見つめる。 「恋愛脳は封印だが、テメーとの関係を終わらせるつもりはねえ」 「……」 「ワリぃかよ」 「付き合ってるのに、なにもしないの?」 「状況見ろ。この衛生環境最悪な状態でセックスか?ゴムもねえ、避妊薬もねえ。性病に関する薬もねえ。イカれてんぞ」 「キスなら出来るでしょ?」 「……歯止め効かねえ場合が出てくるだろ」 「キスしたら、なし崩しにヤッちゃうかもってこと?」 「ゼロじゃねえ」 「まあ、それは、経験ないから、わかんないけど」 「経験は俺もねえが……」 お互いに黙り込む。 「……キスもえっちもしない、おててつなぐだけの清い関係で、全人類復活させるの待ってろってこと?」 足首に巻き付いた紐はとっくに解けてたけど、千空の手はわたしの足首を掴んだままだ。 「そうだな」 千空の手が、スリスリとわたしの足首を撫でる。 「なにそれ、都合良すぎない?」 足首を撫でていた手がぴたりと止まり、千空が申し訳なさそうにこちらを見つめた。 「そんくらいテメーに惚れてんだわ」 バカ千空。そんな顔して絆されると思ってんの? 「……」 ……まんまと絆されたよ! 「都合良すぎ」 「あ゙ー、そうだな」 「バカ千空」 千空はほんとに都合がいい。
20026/08/07

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