千空さんはご不満です
「好きだ」
「は?」
「だからテメーが好きだって言ってんだよ!!」
何が起きているのか、わたしにこそ説明してほしい。
「千空、なんでこうなってんの?」
狭い空間にわたしと千空が詰め込まれている。
「……テメー、今、俺が言ったことガン無視か」
「いやごめんて、ちょっと頭が追いつかないの。ちゃんと返事するから、順を追っていい?」
身じろぎすらできない狭い空間に、わたしと千空が詰め込まれている。
しかも、わたしが千空を押し倒すような形で。
「木材が倒れてきて、俺とテメーが閉じ込められた。以上」
「あっはーん、なるほど、わからん」
そんなご都合よく閉じ込められるものだろうか。
「ケガない?」
「いやそれは俺の台詞だわボケ。頼んでもいねえのに庇いやがって」
「お?わたしが庇ったほう?」
「だからテメーが俺に覆い被さってんだろ」
状況に至るまでの記憶がないな。
でも、どこか痛いというわけでもないし、千空もわたしも怪我はなさそう。
ならいいかと楽観的に考えてしまうのは自分の長所で短所かもしれない。
「なるほど〜。あ、ちょっと手を動かすね」
「変なとこ触んなよ」
「……まかせて」
「100億%任せらんねえ“まかせて”すぎんな」
手の位置を、千空の腰付近にずらすとほんの少し触れてしまう。
ほんのわずかな接触だったにも関わらず、千空はぴくりと反応した。
いやまて腰というか、なにかこう、ちょっと主張するものが、ある気がするのだけども?
「千空……」
「……生理的反応だ。しょうがねえだろ」
「まあ、こんなかわいい子にひっつかれたらこうもなっちゃうか」
「テメーここ出たら覚えとけよ」
「ごめんごめん、出たらいくらでも謝るから。ね?」
真下からスゴまれたって、ねえ?
ぜーんぜん怖くないよ千空。
「これあれだ、SNSとかでよく見たやつ」
「あ?」
「〇〇しないと出られない部屋とか、箱とか」
本気で〇〇しないと出られないシリーズ!
ちょっと前……いや!3700年前にネットミームで流行ったやつ!!
「……テメーそれ言うの二度目だぞ」
「え?あれ?」
すでに言ってた?
「あっ!だからさっき好きって言ったの!?」
「……」
あれ!?千空、かすかに差し込んでる光でも分かるくらい耳真っ赤じゃない!?
「えっまってなに、本心?」
「フェイクで言うわけねえだろ」
「だってほらキリサメちゃん騙すために、宝島でコハクちゃんとキスしてたし?」
「テメー相手に必要ねえだろうが」
「うっそ!ほんと?やった!千空がデレてる!珍しい!!わたしも好き!」
わたしも千空好き!両思いだ!!
「……軽くねえか?」
「そう?本心だけど」
告白されて、お返事が軽いとか重いとかあるんだ?
「うーん、手が疲れてきた……」
自分の身体を支え続ける腕が悲鳴を上げだしてる。
「寄りかかれよ」
寄りかかる=千空に引っ付く形になるけど……見つめた千空の目は、嫌そうじゃない。
なら遠慮なく。
「ありがとー」
ぴとっ
「ためらいなしか」
「だって千空はわたしが好き、わたしも千空が好き。なんか問題ある?」
「……だから軽いんだっつーの」
軽いとか重いとかないってば。
「さっき二度目って言ってたでしょ?」
とくとくと千空の心臓の音が聞こえる。
「あ?あー、出られない部屋のやつか。覚えてねえのか」
「覚えてない。なんで?」
スポーンと記憶が飛んでて、気が付いたら隙間の中で千空押し倒してた。
「知らねえ」
千空が言い淀む。
「千空が告白してくれる前になんかあった?」
「……」
「なんで黙るの?」
千空の心臓の音が、ほんの少し早くなる。
「……」
「千空?」
珍しく歯切れの悪い千空をつつく。
千空は、観念したように、はあ、と大きく息を吐き出した。
「……キスした」
「ん?」
「キスしたら、テメーが顔真っ赤して『なんでキスした!?』って詰めてきて」
「あーわかったかも。わたしが『〇〇しなきゃ出られないからって、好きでもないのにキスするの!?』とかって言ったんだ」
〇〇したら出られる部屋なんて、あんなのは所詮空想だ。
「……そういうことだ」
うーん、興奮しすぎて記憶飛ばしたやつかあ。もったいないことしたなあ。
キスされた時点では好きと言われてなかったから、たぶん怒ったんだろうな。キスは嬉しかったのにね。
「キスしたら出られる部屋、告白したら出られる部屋……あともう残るのはセッ……」
「しねえからな!!」
言い切る前に遮られた。
「やだ千空さん何考えたの?」
「……」
「セットリスト考えたら出られる部屋って言おうとしたのに」
「……」
まあ、そんなわけない。
セッのあとにつづくのはクスしかない。自己辞典からの索引だけど。
ああ、ほら外で大樹の声がする。
救出は近い。
もう一度千空の顔を見る。
やたら面白くなさそうな表情に笑ってしまった。
「よーし!ここ出たら彼氏彼女だね、千空?」
「勝手にしろ」
千空さんはご不満です!
20026/07/22
20026/07/22