幕間 土砂降りの傘

傘を買うか、もう少し待つか…… 最寄り駅を出てすぐのコンビニで、わたしは土砂降りの外を眺めている。 通り雨なら、少し弱まるのを待って走って帰ればいい。 このまま降り続けるようなら、傘を買って帰らねばならない。 はてどうしたものかと、雨雲レーダーを確認しようとしたところで後ろから声を掛けられた。 「花梨テメー、傘ねえのか」 「……えっ!?あっ、千空さん」 片手にカップ麺、もう片方に少し濡れた傘を持った千空さんが、後ろに立っている。 「傘はないです。でも通り雨かな、と思って」 今まさに雨雲の様子を見ようとしていたスマホを掲げる。 「……いや無理だな。あと1時間は止まねえ」 千空さんはわたしのスマホの画面など見向きもせず、ガラスの向こうに広がる重苦しい空を見つめた。 1時間かあ……ここから社宅まで、走っていけば5分もかからないんだよなあ。 傘買うのもちょっともったいない気がするし、ずぶ濡れ覚悟で走るか。 しょうがない、そう決意を固め外への一歩を踏み出そうとした時、千空さんがわたしの腕を引く。 「……これ持って、ここで待ってろ。会計してくる」 そう言うと千空さんが少し水滴の残る傘をわたしの腕に掛け、カップ麺を手の上で転がしながらレジへと向かった。 ん?傘?待つ??会計行くのに邪魔だから、持ってろってこと? 傘立て扱い? 「いくぞ」 「えっ??」 ほどなくして会計から戻ってきた千空さんが、わたしの腕からビニール傘を抜き取る。 自動ドアを出たところで立ち止まると、パンッと軽い音を立て傘が大きく開いた。 「帰んだろ?傘入っていけ」 「えっ、は??えっ!?」 「早くしろよ」 「お、お邪魔します??」 言われるがままに傘へと入れられ、コンビニを出る。 レジ袋に入ったカップ麺が千空さんの腕でゆらゆらと揺れていた。 「濡れんぞ、もっと寄れ」 「ひゃい!!」 ビニール傘なのに、思ったより大きかった。二人で入っても、まだ少し余裕がある。 ……なのに、なんでこんなに近いんだ。 近い近い近い!? というか相合傘!?相合傘だよ!! 石神千空と相合傘!!どういう状況??いや!!事情はさっきの通りだよ!! やましい気持ちなんか一切ないですよ!?一切ないけど!! っだーー!肩が当たる!!すみません!!千空さん白衣濡れてる!!ごめんなさい!! 「どうせ走る気だったんだろ」 「まあ、濡れても5分ですし……」 「アホか。この降り方じゃ1時間40ミリ級だ」 具体的な数字で言われてもよくわからないが、まだわずかな距離しか歩いてないのに、靴はすでにぐちゃぐちゃだ。 すごい雨だぞ。と言っているのだけはわかった。 「……ありがとうございます」 「あ?帰るとこ同じなんだ。入ってくほうが効率いいだろ」 効率いい……効率か。そっか、そうだよね。どうせ同じ家……いやいや、社宅だけど。同じところに帰るんだしね。 傘代浮いた!ラッキー!とでも思っておけばいいか。 雨に濡れないよう、言われた通り少しだけ左へ寄る。 肩が触れるたび心臓はうるさかったけれど、ありがたく千空さんの傘に入れてもらった。
2026/07/26

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