前回までのあらすじ!!
鳩と攻防してる間に、甘く実ったミニトマトを千空さんに全部食べられたわたしはアドバイス通りホームセンターに行くことに。太陽!水!リン!これがミニトマト大量生産へのロードマップだ!!……じゃない!!増やしてどうする!!!
【6】手を貸さなくもねえな
やっば、2株でこんなに増える??
ミニトマトミニトマトミニトマト、おまけにミニトマト。
千空さんのアドバイス通りリン酸肥料を追肥したおかげなのか鈴なりどころが、もはやぶどうレベルで大量にミニトマトが成っている。
おっかしいなあ、会社の人の話では、お弁当にちょっと入れるくらいできるだけだから楽しいよって言ってたはずなのにどう見ても収獲に追われるレベルである。
しかも背丈がこんなに伸びるなんて聞いてない。
ベランダでOKって言ってたじゃん……もう上の階に届きそうだなあ。
このまま大きくなり続けると、空まで伸びて、金のガチョウでも捕まえに行くようなことになるのかもしれない。
金のガチョウの卵も金なのか?中の黄身も金なのか?そうなると、もはや黄身ではない。金身と書いてキミと呼ぶ……呼ばんか。呼ばんな。
しかたないので、ミニトマトははちみつで漬ける。
ちょっと面倒だが甘くて美味しい。普段なら面倒だし、作るからにはたくさん食べたくなって結構な量のミニトマトを買う羽目になるのだが、今回は自家製だ。どれだけ作っても実質タダなのだ。作るしかない。
茹でて、冷水にくぐらせて、皮を向いて漬けるだけ。皮を剥くのに凍らせてもいいかもしれないが凍らせる時間がもったいないので湯剥きにした。
漬けて一日置けば完成。
ここに完成品が〜!という気分で冷蔵庫から取り出した。これは昨日作った分だ。昨日も今日も作っている。もはや3日連続。ピクルスも作ったが、やはりはちみつ漬けが一番美味しい気がする。
お弁当用のバッグに保冷剤を入れ、お弁当とミニトマトのはちみつ漬けを入れる。これで昼は安泰だ。
そんなわけで、ミニトマトな朝活を終え、いつも通りの時間に家を出た。
朝には強い方なおかげで、夏は早めに行動できて良い。冬は暗いというだけでやる気にならない。
もうすでにじとっとした暑さをどこかに感じるが、朝の空気のおかげでまだいくらか涼しい。
職場への通勤路をてくてく歩いていた先に、最近見慣れてきた白菜を見つける。石神千空氏ではないか。
……いや、心の中限定の氏である。
ワオ、朝にここで会うの??どうした、最近やたら会うな。ほんの少し前まではすれ違うことすら無かったのに。まあ、認識してなかっただけで、すれ違っていたのかもしれないが。
声を掛けようか悩んだ。
マントこそ羽織っていないが既に白衣の後ろ姿だ。博士モードの彼は遭遇率が低いせいか、いまだに慣れない。
出勤前なのか、仕事中なのかその判断も付かないほどの付き合いでしかない。
後ろから肩を叩いて、よっ!石神!野球やろうぜ!なんて、そんなナカジマのような気安さは持ち得ていないのだ。千空氏、野球はやらんと思うが。野球どころかスポーツ自体やらなそう。インドア感半端ないし。
どうしようか唸っていたら、前方の千空さんが立ち止まる。
「見てねえで声掛けろ」
「ヒッ!!」
振り返り、呆れたようにこちらを見てきた。
「オハッ!オハヨゴザイマス」
「あぁ、早ぇな。いつもこの時間か?」
「アッハイ、電車混むのイヤなんで」
「なるほど」
「……千空さんは?」
「俺は……徹夜明けだな。風呂入って着替えて、また戻るとこだ」
「寝たほうがいいんじゃ?」
「……今日は寝る」
今日は、ってなんだ今日はって。
人間は毎日寝なきゃなんだよ!
「普通は、今日も、ですよ?」
「……」
ふと、先日のミニトマトの追肥のことを思い出す。
「あの、ミニトマトなんですけど」
「追肥か?」
「しましたら、すっごい、大量で……」
「ほらな」
「いや、ありがたいんですけど、毎日毎日毎日毎日ミニトマトですよ」
「ハッ!お贅沢な悩みだな」
あっ!笑った!!声上げて笑ってる。びっくりした。笑うんだこの人。いや笑うんだろうけど、こんな声上げて笑う人なんだ。
白衣着てても、青年モードの千空さんと同じなんだ。いや、当たり前なんだろうけど。
びっくりしたのかなんなのか、ちょっと心拍数が上がってしまった。朝から刺激が強い。
そういえば、先日のわたしのミニトマトを食べ尽くすくらい気に入ってくれたことを思い出し、お弁当用のバッグを取り出した。
「あの、なんの袋もなくてタッパーが生身で申し訳ないんですけど……」
「あ?」
「これ……」
昨日作っておいた、ミニトマトのはちみつ漬けを取り出す。
「その大量のミニトマト、はちみつで漬けたやつなんですけど……よければ」
おずおずと差し出した。
千空さんは、差し出されたタッパーとわたしの顔を見比べるようにきょとんとしている。
そりゃそうだ、ただちょっと顔見知りのやつから、手作りの食べ物もらうなんて困るよね。
なにが入ってるかわからなすぎるし!!わたしだったら断る。いやぁ、やっちまった!!どうしよう。
手を引っ込めるべき??でも返事聞かずに引っ込めるのもなあ……あーーー!!
いらん、いらんと言ってくれ。わりいな、の一言でいい!!早く断って!!!
「わりぃな」
キタ!!!!即座に回収!!!と思い、手を引っ込め……ようとしたら千空さんがタッパーを掴んだ。
「おありがたく頂戴しとくわ」
えっ!!!もらうんかーーーーい!!
今のわりぃってサンキューの方!?うっそ!?ほんとに?食べんの??まだそんな親しくもない相手の手作りよ??困らないの??
しかももう開けてる。
ついでに食ってる?
「ん、うめえな」
ほんとに食ってるーーー!!
石神千空がわたしの手作り食った記念日??……いや、前もミニトマト食べてたか。生だけど。
しかも丁寧にふた閉めて、大事そうに抱えてるし。
えっ、気に入った系??
「ラボ行って食うわ」
うっそ、ほんとに?……いや、建前だよね建前。本人目の前にしていらねえとも言えんよね。
「こういう食い方あるのは知ってたが、生でしか食ったことねえな。うめえ」
「え、ほんとに言ってます?」
「うめえもんはうめえだろ?糖が染みて酸味が丸くなってる。浸透圧だな」
「しんとうあつ?」
「濃い方へ水が動く現象だ。はちみつの糖も一緒に入り込む」
「……えっ、なんか言い方がアレですね」
「料理も科学だからな」
ドヤ顔すぎる。
でも建前じゃなくて本当に美味しいと言ってくれてるようだった。
「タッパーは借りとく」
「いや捨ててくれてもいいんで……」
「これならミニトマトの消費に手を貸さなくもねえな」
「えっ、言い方!?」
千空さんが声を上げて笑っている。
今朝作った分は、またこの人の胃袋に収まるのかもしれない。
……いやミニトマト、まだ増えるんだけど。リン酸肥料強すぎない?
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