前回までのあらすじ!!
村人Aのせいで大根とともにネカフェで一夜を過ごしたわたしを待ち受けていたのは石神千空のモーニングコールとコハクさんという美人警官への相談会だった!!「氏」と「殿」は禁止され、めでたく千空さんになりました!!そして元気にシャインマスカット風パフェを食べたのだが……シャインマスカットではないあれはなんだったの?
【5】追肥はリンだ
青空にもくもくとした雲が映えている。
石化して3700年経ってる間に、なんやかんやと気候変動が起きてることは知っていたが、たしかに旧世界に比べたら涼しい気もする。
あれは旧世界が異様だった。体温より高い気温ってなに?
いやでも気候変動したからって暑いは暑い。めっちゃ夏。すごい、あのへんの雲なんて、あの雲に父さんが居る、とか言いたくなるようなもくもくっぷり。父さん、雲の向こうに空飛ぶ城はあったんだ。
木々が生い茂る近所の公園は木陰が多く、気温は高くとも木陰に入れば涼しい。このへんは気候変動様様かもしれない。旧世界では外にいるだけで死亡フラグだったろう。
そんな木陰が好きで、わたしはよく外で昼食を取ることが多かった。
今日は家の近所での外回りの仕事が入っていたので、お気に入りの公園の木陰で弁当を広げていた。
外で食べるのは好きだ。人間観察、植物観察。鳥観察。やばい寄ってきた。だめだこれはだめだ。わたしの昼食だぞハト隊長!!鳩なのか?これは鳩なのか???
ドットゥーじゃないドットゥーじゃ!そんな首を傾げたらもらえると思うなよ!!……卵焼きあげてもいい?いやだめだ共食いになっちゃう!鳩の卵じゃないけど卵だし、いとことか、ハトこ、とか、そういう感じでしょ!?なんてな!!いやいや、卵焼きは駄目!!唐揚げもだめ!!
突然鳩たちがばさばさと飛び立つ。
「ネギが鴨じゃなくて鳩と遊んでんのか」
「ヒュッ!せせせせせ千空氏」
「氏じゃねえ」
「千空ど…さん、コンチャッス」
「あぁ」
千空さんがベンチの横にドスッと音を立てて座り込んできた。
モーニングコールファミレスからご無沙汰ぶりの遭遇である。
コハクさんのおかげなのか、アパートのまわりは、露骨というほどでもないがそれとなく制服を着た警官や、なんとなーく頻度が高い気がするパトカーの巡回が増えた。
まだ夜道は少しだけ気になるところだが、お陰様で、あれからネカフェ利用もなく、いまのところ平穏に生活している。
便りがないのが良い便りとばかりに、とくに千空さんとの連絡も取り合っていないので、本当にご無沙汰である。
いや、わたしは連日ネットニュースや紙面で、あなたを見てますがね。探してるわけではない。本当です。勝手に目に入るだけです。本当ですからね。
「ネギも大根も入ってねえな」
こら博士、ひとの弁当を覗くものではない。
「ネギ入れるなら卵焼きだし、大根入れるなら煮物ですけど、そもそも大根を弁当に入れると、かなりの異臭テロですよ」
「……」
考えている。あ、眉顰めた。あのニオイを想像したな?大根は美味しいけれど弁当にはちょっと不向きだと思うのがわたしの持論だ。切り干しくらいがギリセーフ。まあ入れるんだけど。
「あ、先日はありがとうございました」
「大丈夫だったか?」
「大根、半日水に浸して元気になったので、おろしそうめん無事に食べました」
「そっちじゃねえよ」
「あ、え?あーー、あっちか。おかげさまで」
「ならいい」
痣もすっかり消えた。
まあうっすら見えなくはないが、自分にしか分からない程度だ。長袖から半袖のブラウスにようやく衣替えできた。まあ結局日焼け対策に長袖を着る率も高いのだが。
今日は半袖だったので、千空さんの視線も腕に向いていたが、お互いあえて触れはしない。
「普通、弁当のこのポジションはフルーツとかじゃねえのか?」
主食の他に持ってきてある少し小さめのタッパーを指しているようだ。
だからひとの弁当を覗くなと。
「デザートにミニトマト食べちゃいけないとかルールありますっけ?」
「いや、んなルールねえが……量多くねえか?タッパーめいっぱいミニトマトだぞ?」
ベランダ菜園が最盛期なのだ。興味本位でたった2株ミニトマトの苗を植えただけなのに採っても採ってもミニトマト。ミニトマトミニトマトミニトマト。しかたなく一食あたりのミニトマト消費量を増やすしかない苦肉の策なのだ。
「……食べます?」
「ん、もらう」
えっ、食べるの??わたしのミニトマトを??石神千空が???
つまんで、ひょいと口に放り込んだ。
「甘えな」
「そうなんですよ、甘いんですよ。そんなこと苗に書いて無かった気がするんですけど」
「植えたのか」
「興味本位で……」
「甘くする方法は色々あるが……手っ取り早ぇのは水やり減らす、日光に当てるだな」
千空さんが指でミニトマトをつまみ、太陽にかざす。
あー、ミニトマトと千空さんの瞳の色が同じだ。
「南向きのベランダで、水やりは気まぐれですね……」
そのままポイと自分の口に放り込んだ。
「……合ってんな。追肥ならリンだな。リン酸肥料でも入れとけ」
話しながらもうひとつつまむ。
「千空さんめっちゃ詳しいですね?」
「農業もアホほど結果の出る科学だぞ」
「あーそうだった。千空さん科学者だった……」
ワイシャツにネクタイ、手にはコンビニ袋ぶら下げた青年モードなせいで、世界を救った偉人だったことなんて、とんと頭から抜けていた。そんな人が、わたしのミニトマト食ってるし。
千空さんがひょいひょいとミニトマトを口に入れている。
いや、まって、何個目?ちょっと、わたしまだ1個しか食べてない。いや良いんだけど!家でたんまり食べてるんだけど!?なんか外で食べるミニトマトうめえーって、デザート代わりに食べようと最後まで残してたのに??
「たまに食うとうめぇな」
「アッハイ、ドゾ……」
結局全部食われた。
「ごちそうさん」
「もうない……」
「あー、さっき言ったろ。追肥はリンだ。アホほど増えんぞ」
「いやもう数は足りてるんですよ」
「毎日食えばいいだろ」
「もう食べてますよ!!」
なぜか帰り道、ホームセンターに寄るわたしが居た。
いや増やしてどうする!!
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