前回までのあらすじ!
夏大根を格安でGETしたわたしはおろしそうめんを食べようと奮闘するが、村人Aの待ち伏せにあい、石神千空氏に送ってもらうというラッキーイベントが強制終了!!
そう全部アイツのせい!!そうめんもおろしもビールも全部達成できてないまま、わたしは今、ネカフェにいます。
大根といっしょに。
【4】氏ってダメなんです?
ブブブ、ブブブと、デスクに置いたスマホが震えた。アラームとは違うパターンに思わず飛び起きる。
そうだ、ネカフェだった。
結局、昨夜は帰ることを諦め、ネットカフェで一晩過ごしたのだ。
シャワーもある。タオルも借りられて、個室で寝られる。あと、なによりごはんも食べられる。
ネカフェで注文した、やたら安いカレーが案外おいしくてネカフェ生活もアリかも?と、もしもに備えた悲しい逃亡ルートを考えた。
あと、ソフトクリーム食べ放題なのはデカい。
着信?だれ?
寝ぼけた目をこすりながら、震えるスマホを手に取る。
着信
石神千空
!?!?!?!?!?
画面いっぱいに表示されていた名前に椅子からずり落ちそうになった。
いいいいいいしがみせんくうからのちゃくしん!?寝起きの頭に刺激が強すぎる。何事!?
いやまってまって昨日!そうだ!せっかく送ってもらったのにろくにお礼も言わずに置いてっちゃった!!
ノォォォーーーー!!もしかしなくても文句?苦情?クレーム?助けて!!
今から30分間オペレーターを増やしてお待ちしてて!!!
「は、はい」
『遅え。何分呼び出してっと思ってんだ』
そんなに鳴らしてないよね??いっぱい頭でつっこみまくってたけど時間なんか数秒くらいだと思うけど?
しかしそんなこと言えるわけ無いので挨拶から入る。社会人の基本だ。
「アッ、ハイ、オハヨウゴザイマス」
『今どこだ』
無視かあ!挨拶無視か!だめだぞ社会人なんだから!言わんけど。
「駅前のネカフェです」
『あー、ならちょうどいいな。20分後に駅前のファミレス集合』
それだけ言うと、博士氏からの電話はブツリと切れた。
「え?20分後?」
すっぴんである。眉毛すらない。
最低限の化粧道具はある。でも移動も考えれば10分もない。
だいぶさっぱりした顔のまま行かねばならないのかと思うと気が重かった。
ついでに昨日の大根もまだ一緒にいる。お前も重い。
インフルエンサーもびっくり倍速ハイスピードメイクをこなし、なんとかさっぱりした顔から、まあまあな顔まで底上げしてファミレスへと向かうと石神千空氏が入口で待っていた。
やばい人生初の石神千空氏との待ち合わせ!?
……まった?ってスンとして言えばいい?それともギャルゲー風に、まったぁ?って言えばいい?
一緒に帰って、ともだちに噂されると恥ずかしいし。いやこれは帰りのセリフだ。
「オハヨゴザイマス」
「ああ」
おはよう言わねええ。だよね石神千空だもんね。
これで、あ!おはよ!いい朝だね!とか言ったらそれはそれで貴重すぎて録音したいやつだよね!!
促されて中へ入る。
まだ早朝だ。駅前で24時間営業しているファミレスとはいえ、この時間は人の入りもまばらだった。
わたしたちは好きな席へどうぞと案内され、石神千空氏がドリンクバーに近い窓側の席を選んだ。
「もうひとり来る。まあそれまで朝飯でも食ってろ」
向かい側に座った石神千空氏は、そう言ってモーニングのメニューを滑らせてきた。下に重なったパフェも気になる。
「石神氏は……」
「……つーか、なんだその呼び方」
「千空氏?」
「そっちじゃねえ、氏の方だ」
たまには和食にしようかな。
「……え、氏ってダメなんです?」
「一人称に拙者とか言い出すオタクか」
「だってなんて呼べば」
「千空でいいだろ」
「千空殿」
「殿もやめろ。松風かよ」
松風って誰だよ。
「……千空さん?」
「……最初からそれでいいだろ」
普通だ。こんなに普通でいいのか石神千空。まあ、ありがたく“さん”付けで呼ばせて頂こう。
拙者が心の中で博士氏と呼んでいたことは内緒でござるよ。うん、誰宛?
ぽちぽちとタッチパネルで朝食を注文していると、やたら綺麗な女性が千空さんのとなりに滑り込んできた。
「すまない千空。待たせたか?」
「待ってねえよ。俺らも今来たとこだ」
「彼女が例の件の子か?」
「あぁ。昨日話したやつな」
目がパッチリしていて、とても整った顔をしている。スタイルの良い、きれいな金髪の女性だった。
「コイツはコハク」
「コハクだ、よろしくな」
「アッ、ハイ!」
見た目どおり、ずいぶんサッパリしている。
「あー、コハクこっちはネギ……じゃねえな、花梨だ」
「ンヒッ!!名前!?」
ヤバい思わず変な声が出た!!!名前ちゃんと認識してんじゃん!なんだったのあのネギ攻撃。
「アッ、ハイ、花梨デッス」
「花梨か!よろしくな」
「ネギの方が覚えやすかったな」
「ネギ?」
「いやコイツ初対面でネギ持ってた」
「花梨ですから!花梨!!」
自己紹介も済んだところでタイミングよく頼んだ朝食が運ばれてくる。
コハクさんは食べてきたらしくドリンクバーだけ頼んでいた。千空さんもコーヒーだけだという。
まて、食べるのわたしだけ??普通に和食朝食セット頼んじゃったよ?
目玉焼きと鮭に、ごはん味噌汁。気まずっっ………ええい!!頼んだからにはしかたねえ。
食うぜ!おれは食ってやるぜ!!!
箸をつけ始めて間もなく、千空さんがコーヒーを啜りながら話し出した。
「昨日、買い忘れじゃなく逃げたんだろ」
「……」
「この前の、元カレ現ストーカーだな?」
「なるほど、痣出来るほど掴まれたというやつか」
「ああ、それだ」
どうやら千空さんは、コハクさんにわたしの話をしていたようだった。
黙々と咀嚼しながら、ふたりのやり取りを、どこか遠い話のように聞いていた。
「家の前で張ってたから逃げてネカフェ。そんなとこだろ?」
口の中にはまだ朝食が入っていたため、こくこくと頷く。
「あー、説明し忘れてたがコハクは警察だ。それもあって呼んだ」
「警戒くらいならいくらでもするぞ。事情を聞いてもいいか?」
水をひとくち飲んだ。
「結構胸くそ悪い話だと思うんですけど、いいんですか?」
「ハッ、それが私の仕事だからな」
石化前、そして石化後の村人Aのことを話すと、正面のふたりは微妙な顔をしていた。
まあ、そうなるよね。我ながら酷いヤツに引っかかったもんだと思うよ。
それでも最初、知人に紹介されたときは好青年感あったんだけどなあ。
気が付けばその知人もいつの間にか消えていた。
サイコロ振って駅に止まるすごろくゲームで、貧乏神をなすりつけられたような感じかもしれない。
結局わたしだけ赤字を抱えた。
結果だけ見れば、わたしの見る目がなかったって話なんだけど。
「それは、クソみたいな男だな」
コハクさんが神妙な顔で言う。千空さんは何も言わずにわたしの後ろにある窓から外を見ているようだった。
「それはわたしも思います」
もうだいぶ冷めてしまった味噌汁を啜る。
「テメーはどうしたいんだ」
「……近づいて来なければ、あとはどう生きてようが関係ないかな。とは思います」
別にどうこうしたいわけではない。
見えなければ居ないものと判断する。それで十分だ。
「ひとまず見回る方向で良いか?」
「あァ、現状それしかねえだろうな」
「特徴は?」
「背丈は170半ば。中肉中背、髪は黒。喫煙者。俺が分かってんのはそれくらいだな。あとはコイツに聞け」
「わかった、金狼たちにも伝えておこう」
ふたりが当たり前のように今後の対応を話している。
わたし一人だったら、きっと“もう帰れない”で終わってた気がした。
「ありがとうございます」
箸を置き、深々と頭を下げる。
村人Aの情報をわたしから聞き出したコハクさんは、ではな!と爽やかに去っていく。
席にはまた私と千空さんだけになった。
さて、深刻な話も終わった。
我慢しきれずさっきから気になっていたパフェを追加で注文する。
シャインマスカットのパフェだと思って注文したら、よく見たらシャインマスカット風と書かれていた。
風ってなんだよ風って!!石化してる間にシャインマスカット滅んだ!?
いつまりシャインマスカットっぽいなにかってこと!?必死に探したの??
いや、でも、ありがとう!食べる!!
朝からパフェ食う女を気にしないでくれている千空さんに感謝です。
「そういや昨日の大根どうした」
「ここにありますけど」
「……しなびてるなら水浸けときゃ戻るぞ」
「えっ!ちょ!早く帰りたい」
今日は絶対、おろしそうめん食べる!!!
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