前回までのあらすじ!! 部外者のわたしがなぜか石神千空博士のラボの社宅に入居することに!?もしかしてこれって、ドキッ!理系だらけの社宅生活のはじまり!? ちなみに社宅の入口にプランターを置くと、問答無用でムキムキになるのはなぜでしょう!正解は次の動画で!!チャンネル登録をしてね!!! これ言ってみたかったんだよね。

秋編【1】迷子のナスって何?<1>

カサカサと乾いた音を立てて、黄色くなり始めた葉が風に揺れている。 これは残暑ザンショ!なんてダジャレを言っている間に、季節はすっかり秋になっていた。 千空さんのラボの社宅に引っ越したおかげで、駅からずいぶん近くなった帰路を歩く。 手にはカバンと、袋めいっぱいのナス。 職場の近くで、近所の農家のおばさんたちが持ち寄りの直売会をやっていた。二つ折りの財布だけ持ってふらりと寄ったら、見事なナスがたくさん並んでいた。しかも安い。 美味しそう!と声を出したが最後、待っていました!とばかりに、おばさんたちのマシンガン農産物プレゼンが始まってしまい、あれよあれよという間に袋いっぱいのナスを買って帰る羽目になってしまった。 焼きナス、揚げなす、揚げ浸し。 まあこのくらいなら、中の種が目立つようになる前には食べ切れるだろう。そうタカを括ったまま、社宅の階段を登る。 階段を登ってすぐ、遠目に見た自分の部屋のドアに異変を感じた。 部屋はエレベーターの真横だったが、エレベーターではなくあえて建屋の端に設置された階段を使ったので、登りきった階段から部屋まで少し距離がある。 違和感だ。違和感しかない。 しかも嫌な予感しかしない。 恐る恐る部屋へ近付く。 ドアノブに白いビニール袋が掛けてある。見覚えなどない。 不審物すぎる。 この社宅に引っ越してひと月ほど。今までこんな事が起きたことはない。ちなみに左右のどの部屋にもそんな謎の袋など掛けられてなどいなかった。 どうする。どうするわたし。 だめだ!迷ってる場合ではない!!わたしは!今日!なんとしてでもナスの揚げ浸しを!!つくって!!明日食べるんだ!! 揚げ浸し。もうそれ以外考えられない。揚げ浸しは染みてなければ意味がない。つまり今日作らなければ明日食べられない。 脳内は揚げ浸しのことでいっぱいなのに、この袋をどうにかしない限り部屋に入ることすらできない。選択肢なんてそもそも無かった。 意を決してドアノブに掛かった袋の片側を摘み、袋の中を覗き込む。 ・ ・ ・ ナスだ。茄子。ナスダック。いやダック関係ない。 つやつや輝くナスが、これでもかと詰め込まれている。 わたしは自分の左手を見る。 ナス。 右手のドアノブを見る。 ナス。 ナスの玉手箱や〜! えっ、まって、両手ナスの場合の対処法ってなに。ていうかキミどこから来たの?迷子?迷子のナスって何? そのままにするわけにもいかず、混乱しながら袋を外し、迷子のナスを家の中に連れて帰った。 「マジでどっから来たし……」 村人Aの件があってから、知人にわたしの家の住所は伝えていない。当然ながら、スマホに誰かからのナス配達通知が入っているわけもなかった。 ドライバーさんにありがとうすら言えやしねえ。 このエリアは、高層ビルや高層マンションは建てない取り決めになっているらしく、一軒家や低層マンション、アパートが立ち並ぶ新世界では人気の住宅街。畑は旧世界よりは多い気がするが、田舎じゃあるまいし、見知らぬ誰かからの農産物テロとかありえないだろう。 当然だが、農産物を貰えるような知人は居ない。 「中に、メモとか入ってないの?」 ガサガサと音を立てながら袋の中を漁ると紙が1枚入っている。 「あった!!」 ちくちくするナスのヘタの間に手を突っ込み紙を取り出す。拾い上げた紙をみてわたしの動きが止まった。 もらった 食え SENKU 名前の横には、変な顔の絵まで描いてあった。 SENKU……千空? 千空って石神千空???えっまって、この変な絵、似顔絵??やば!!似てる。変なのにめっちゃ千空さんってわかる。 ……えっ、千空さんからのナスってこと!? もらった食え!?誰にもらうの!?石神千空にナスあげる人いるの!?すごい!!チャレンジャーすぎる!!! なんとなくそのメモは捨てられず、冷蔵庫にマグネットで貼る。 うーん、受け取ったことくらいはメッセしなきゃだよねえ。 「たくさんナスありがとうございました」 「帰ってきてびっくりしました」 「ごちそうさまです」 実はわたしも直前に山盛りナス買ったところなんです〜!奇遇ですね!今夜はナスパーティです!なんて書けるわけがない!!大人なのだ。書きたい気持ちはぐっとこらえて感謝を述べる。これ基本なり。 千空さんともメッセならば、直接顔を見たり電話で話すよりもスムーズに、やり取りできるようにはなってきた。多少成長している。ただ、ドヤって言っているが、やり取りすることはめったに無い。 『足りねぇならまだあるぞ』 さほど時間はかからず返信が来る。 おい、まだあるぞってなんだ!?どんだけもらったの!?こんなにあるのに?いやもう勘弁して!? 「大丈夫です」 「千空さんの分はあるんですか?」 『いや、あったところで調理してる暇がねえからそこに置いた』 『気にせず食え』 自炊してるのかどうかも謎だもんな。 自炊どころか、家に帰ってきているのかさえ謎。 ふと、気になって質問してみる。 「千空さんナス食べられます?」 『食える』 好きかどうかはわからないが、食べられることだけ判明。 「このあと常備菜でナス使う予定なんですが、出来たら少しお渡ししても大丈夫ですか?」 「実はわたしもナス買ったばかりで、一人で食べるにはちょっと多くて」 言ってしまった。 オブラートにくるみまくってるが、山ほどあるんだって言ってしまった。 手作りに嫌悪感はなさそうなので、また消費に手を貸してもらうしかない。このままでは三食ナスだ。さすがにそれも2日が限度だろう。 『今日か?』 「一応これから作ります」 『22時過ぎるが、それで良ければ寄る』 意外にも寄ってくれるらしい。 「助かります!」 「これから作るのでその時間のほうが都合がいいです」 『了解』 よし!マンパワーGET! じゃあやるか!! 部屋着に着替え、エプロンを着ける。 ナス消費作戦の始まりだ!!唆るぜこれは!!……あれ?これどっかで聞いたな。 2page >>>

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