前回までのあらすじ!
全人類を巻き込んだナスとの闘いはついに終焉を迎える。
ちなみに千空さんが一番気に入って食べたのは揚げナスでも味噌炒めでもなく、ひき肉と市販の調味タレで作った麻婆茄子だったそうです!!
あー、ハイハイ!科学!科学!!
秋編【2】あ、かぼちゃ食べたい
少しは学習しろと。
何度同じことを繰り返すのかと。
どすんと音を立ててエコバッグをキッチンに置くと、はあ、と大きなため息が出た。
──かぼちゃを。
かぼちゃを1玉まるまる買ってしまった。一人暮らしなのに。
かぼちゃ1玉。またやらかした。ついつい買ってしまった。
どう考えても原因は今朝のニュースでしかない。
未開発エリアでの石像発掘調査に石神博士が参加。
そのテロップを見て思わずテレビに釘付けになった。
すごい、さすが博士氏。参加するだけでニュースになる。
赤マントに白衣、いつもの博士モードの千空さんと、頭にかぼちゃみたいな帽子を被った地理学者の女性が、資料を見ながらあちこちを指差していた。
あのかぼちゃ、アイデンティティ的な?
千空さんも頭のかぼちゃに疑問そうな顔してないし、戸惑ってるのわたしだけ??
……あ、いや、周りの人はかぼちゃ帽子二度見してる。
わかる、わかるよ。そうだよね?
……あ、かぼちゃ食べたい。
我ながら安易な考えだ。またやった。結果これだ。ひとりでこんなデカブツどうしろというのだ。
そう頭を抱えていたとき、先ほどポストから回収したチラシが目に入った。
子どもたちのハロウィンイベントへの協力をお願いします。
子どもたちが協力者の家を回るので、お菓子を提供してほしいというものだった。
協力出来る場合は当日ジャック・オー・ランタンの絵を玄関扉へ貼るだけでいいらしい。
これだ!!!
かぼちゃプリンで消費だっっ!!!
ハロウィン協力日まではまだ時間がある。とりあえず試作と味見で何個か作ろう。
思い立ったが吉日とばかりに部屋着へ着替え、試作のかぼちゃプリンを作り始めた。
子どもに配るものだから、なるべく材料は少なく、味はシンプルに。
なめらかさだけは譲れないので、かぼちゃだけ丁寧に裏ごしする。
蒸し上がったプリンを冷ましてる間に夕飯を済ませ、ついでに風呂にも入ってしまおう。
出てくる頃には、ちょうど食べ頃になっているはずだ。
そう思いながらウキウキと風呂へ向かった。
*
翌日。
会社帰りの改札で見慣れた白菜を見つける。
私服でキャリーケースを引いた千空さんがちょうど改札を出るところだった。
以前、もたもたしていたら千空さんから「見つけてるなら声を掛けてこい」と言われたことを思い出し、慌てて後を追う。
「千空さん!」
「あ?……花梨、テメーか。今帰りか」
「はい。千空さんは……旅行?の帰りですか?」
「いや、西の方に発掘調査行って、ついでに私用で寄るとこあったからな……まあ、正確にはその帰りだな」
発掘調査!昨日ニュースでみたやつだ。その後が私用……だから私服なのか。
「発掘調査、ニュースで見ました」
「あー、カメラ入ってたなそういや」
「結構遠くまで行くんですね……」
「断るわけにもいかねえしな」
駅から社宅まで、少し暗くなり始めた道を、ふたりで歩く。
千空さんの引くキャリーケースが、ゴロゴロと住宅の壁に反射して鳴っていた。
「ニュース見てて思ったんですけど、発掘調査したところって、石像結構見つかるもんなんですか?」
「まあチェルシーがだいたいの地層変動見るからな」
「チェルシー?」
「かぼちゃの帽子のヤツ映ってたろ」
「あーーー!」
いたいた!!かぼちゃ帽子!
「俺だけじゃ限度があるが、アイツが参加すりゃ出てくる率は結構変わってくる」
すごい。ちゃんと見つかるものなんだ。
「……うちのお父さんも、どっか埋まってるのかなあ」
思わずひとことがこぼれてしまった。
「……お父さん?」
千空さんが立ち止まり、わたしは慌てて言葉を繋げる。
「あ、えーっと。うちのお父さんまだ石像見つかってなくて。
当時どこにいたかも見当が付かなくて、石像捜索の依頼も出せてないんですよね」
もともと糸の切れた凧のような人だ。
実家を離れて暮らしていたわたしには、その当時どこに居たのかまったく見当もつかない。
下手したら日本にすらいなかった可能性もあるしね。
「……母親は」
「あー、お母さんは……」
少しだけ返事に迷う。
「……お母さんは……見つかったんですけど、石片が足りなくて」
「……」
千空さんの表情が一瞬歪んだ。
ああ、やっぱり言わなきゃよかった。
千空さんにそんな顔させるつもりじゃなかったのに。
動画の一時停止ボタンでも押したみたいに、ふたりとも微動だにできない。
千空さんの表情は、もういつも通りに戻っていた。
それでも、どちらも口を開けなかった。
後回しにしていた事の蓋を、ちょっと開いてしまったせいでこんな事に。
急いで蓋をする。
少し気まずくなってしまった空気を変えたくて、思わず大きな声を出した。
「あ!プリン!」
「……なんだ急に」
「千空さん、かぼちゃプリン食べません?」
「は?」
社宅のエレベーターのボタンを押しながらハロウィンの事情を説明する。
「あー、そういや社宅の連中がなんかやるだのなんだの言ってたな」
「試作品ですけど、昨日作ったのでよければ食べます?」
「ん、もらう」
扉の前で待ってもらい、急いで冷蔵庫からかぼちゃプリンを取り出す。
適当な空箱に4つ並べてラップで蓋をした。
「おまたせしました!」
「……多くねえか?」
「いやぁ、かぼちゃ丸ごとひとつ買っちゃって……」
「またか……テメーは学習しねえな」
千空さんは呆れたように笑いながら、プリンの入った箱を受け取った。
いや、わたしが悪いんじゃない。
……かぼちゃ帽子の人が原因です。
▲back / ▼top / next▲