前回までのあらすじ!!
みんな大好きかぼちゃのプリン!パンプキンプリンだとパ行が多くてかわいいのだけど、カタカナが読みにくくて大変なのでパンプキンプリンは使いません。
だってパンプキンプリンだよ?
パンキンプリプン!
……ん?
2026/06/21
秋編【3】ゾンビじゃない、かぼちゃだから
「できた」 社宅でのハロウィンイベント当日。 完成したかぼちゃプリンを、蓋付きのカップごとひとつひとつ小袋に入れる。 中には食物アレルギー対応用に、使用した材料を書いた小さな紙を入れた。 こうしておけば、子どもが食べられるかどうかは親が判断してくれるだろう。 小袋をジャック・オー・ランタンのシールで封をすれば完成だ。 何個必要なのかわからなかったので、結構な数を作ったおかげか、まるまる1玉あったかぼちゃは、ほぼ終了した。キミは、かぼちゃプリン専用かぼちゃとして有終の美を飾るのだ。残った最後は焼いて食べようかな。 あとたぶんプリン自体、作りすぎてる。冷蔵庫2段がほぼプリン。 でも、余れば自分で食べるから問題なし! 最後に、協力の意思表示として、ジャック・オー・ランタンの絵を玄関扉に貼り付けて準備は終了した。 プリンのカップと小袋を買うついでに魔女帽子も購入したので、なんとなくそれも被ってみる。 少しは雰囲気出るよね?黒っぽいワンピースでも着るべきだった?まあいいか。 お菓子さえ貰えれば、相手が魔女だろうがナマハゲだろうが気にしなさそう。 あとは子どもたちを待つだけだ。 しかし、開始時間を少し過ぎても部屋のインターフォンが鳴ることはなかった。 そこまで時間の掛かるほど大きな社宅ではない。 様子を見てみようかと玄関扉に向かうと、扉の向こうの話し声がかすかに聞こえてきた。 「……これ?」 「ちがうんじゃない?」 「でもさあ」 複数人の子どもの声だ。 どうしたのだろうか。 「ゾンビじゃね?」 「だってこれかぼちゃじゃないよ」 「やめとく?」 ゾンビ??かぼちゃじゃないとは?? 「かぼちゃで合ってんぞ」 子どもの声を割るように、低い男性の声がした。 慌ててドアスコープから覗くと、可愛いコスプレをした子どもたちの間に、見慣れた白菜が立っている。 「あ、ドクター!」 「ドクターせんくー!」 「あー、うるせーな。お元気いっぱいかよ」 「ドクターせんくー!トリックオアトリート!!」 「トリックオアトリート!お菓子ちょうだい!」 「おかしーー!」 「テメーら、もうかなり菓子持ってんじゃねえか!お贅沢すぎんだろ」 「ドクターも!」 「トリックオアトリートだよ!」 「しょうがねえな、ほら」 「やったー!ありがとう!」 千空さんが、子どもたちのバスケットの中にお菓子を入れている。 「ねえ、ドクター。この絵ジャック・オー・ランタン?」 「ゾンビ?」 「クリーパー?」 「ピンポン押していいの?」 「押せ押せ。中からねーちゃん出てくっから。テメーらピンポン押すの、プリン持って待ってんぞ」 千空さんの声に慌ててプリンを取りに行く。直後ピンポーンとインターホンが響いた。 ガチャリと扉を開ける。 「トリックオアトリート!!」 複数人の子どもたちが、わらわらと玄関になだれ込んできた。 魔女、おばけ、ガイコツ……変身系魔法少女?……ん?君は何だ??SWAT?武装警察的なやつ? ハッピーハロウィン!と返しながら、プリンを手渡していく。 バスケットやリュックにポイポイ投げ込まれるプリン。蓋付き大正解!! 早めに食べてね。と声を掛ける。 千空さんはその様子を、子どもたちの後ろから眺めていた。 結局そのあとも扉を閉める暇なく子どもたちがやって来て、あれほどあったプリンも残り数個になった。 トリックオアトリート!と声を掛けられるたび、ぶっきらぼうに「ほらよ」と返しながら、千空さんも律儀にお菓子を配っていた。 「んなとこか」 「……結構来ましたね。子ども、こんなに居たんですね」 「いや、社宅自体は数組だ。そのへんのガキも混ざってんな」 「多めに用意しておいて良かったです」 「しっかし……」 千空さんがわたしの部屋の玄関扉からジャック・オー・ランタンの絵を剥がす。 「これはどう見てもかぼちゃじゃねえだろ」 「え?」 ジャック・オー・ランタンの絵はわたしの渾身の手描きだ。 「……緑のかぼちゃですよ」 色を間違えた。ジャック・オー・ランタンといえばオレンジなのに、つい自分のイメージするかぼちゃの緑で塗ってしまった。 「いやどう見てもゾンビだろ。緑もそうだが顔?顔かこれ?怖すぎんだろ!」 後出しで言えば、あまり絵は得意ではない。 でもゾンビじゃない、かぼちゃだから。 ちょっと、なんか、四角い、緑の、クリーパーみたいな、かんじに、なったけど、このうえのぐにゃってかんじはかぼちゃじゃない?? え?かぼちゃじゃない??? でもゾンビはないわ。ゾンビは。描いた人が可哀想でしょ!! 「そりゃ、ガキどもが戸惑うわけだ!」 そう言って千空さんが絵をみてゲラゲラと笑っている。 いやちょっと笑い過ぎでは??? しかも千空さん、人をいじってるときだけは、最高に楽しそうだということが最近わかってきた。 性格悪いな!! 千空さんの手から、ジャック・オー・ランタンの絵をひったくる。 「あー、アホほど笑った」 「失礼すぎません?」 「事実だろ?」 ムスっとしていると千空さんが「テメーも言うことあんだろ?」と言ってくる。 「言うこと?」 「さっきガキどもに散々言われてただろ」 「……え?トリックオアトリート?」 そう言うと、取っ手のついた小さな白い箱を渡された。 「大正解。100億万点やるよ」 また出たよ巨大点数。 「なんですこれ?」 「やる」 「え?わたしにですか?」 「今、自分で言ったろ。お菓子くれなきゃイタズラするぞ、ってな」 恐る恐る箱を開けると、なかにはタルトが一切れ入っている。 かぼちゃの絵が刺さっているのでパンプキンタルトなのかもしれない。 「えっ、大人も対象なんです?」 「んなもん、大人だろうがガキだろうが関係ねえだろ」 さっきの子どもにお菓子を配っているときもそうだったが、千空さん自身、案外イベントはイベントとして楽しむタイプなのかもしれない。 「……千空さんは」 「あ?」 「千空さんは言わないんですか?」 「なにを……あー、言えってか?」 「言えばプリンありますよ」 「ったく、しゃーねえな」 Trick or Treat やたら良い発音で発せられた言葉に笑ってしまった。 ちなみにもらったパンプキンタルトは、美味しすぎた。どこのお店のだろう……? 今度聞いてみよう。 秋編・完 冬編へつづく2026/06/21