前回までのあらすじ!!
友チョコ懐かしいなあ。高2のバレンタイン。
わたしの知らないところで発行されてた整理券はホワイトデーまで配布が続いてたらしい。
友達が『欲しい欲しい!』ってねだってくるから、わけもわからず毎週末になると延々と作ってたなあ。
トリュフ、生チョコ、フォンダンショコラ……
そのねだってきた友達からホワイトデーに『今までの材料費だよ』ってすごい金額が入った封筒渡されて、
それが先生にバレて高3は禁止になったけど……。今思えば闇取引されてたんだよね?
あれって結局、私のせいだったの??
春編【1】条件揃や爆発すんぞ <1>
小鳥のさえずりで目が覚める春うららかな朝。皆さんいかがお過ごしですか?
わたしは今、走ってます。
全速力で。
いや、揶揄とかじゃなくて、ほんと走ってる。待って待って!!待ってバスッッッ!!のります!!わたしもそのバス乗ります!!
いつもは電車通勤だが、その日は前日の線路内トラブルが原因で通勤路線が停止。昨夜の帰りの構内は大混乱。でも振替輸送があるだけマシかも。
バス、混むし遅いんだよなあ。しかも電車の影響で更に混むはず。いつもよりかなり早めに出なきゃなあ、なんて思っていたのに。
基本的に朝は強い、にも関わらず今日に限って!!今日に限ってびっくりするほど寝坊した。
起きたらとっくに家を出る時間だった。しかも今日は担当先に時間指定で呼ばれている。遅刻すら出来ない。
なんで??なんでどうしてこうなった??
全力疾走でバスに滑り込む。
若干アウトだった気もする。危なかった。バス停にいたお兄さんが、バス待ちの女性たちを前から後ろまで口説いていたおかげで間に合った。
宗教とか?キミカワイイネ教?
ちなみにわたしは猛ダッシュでバスに乗り込んだせいで声をかけられなかったが、この便に乗らないと確実にアウトだったのでそのへんはどうでもいい。
はあはあと肩で息をしながらつり革に捕まる。
「……あれ?岩瀬さん?」
頭上から降ってきた声に視線を向ける。
ん?誰だっけ?
「あ、もしかしてわかんない?」
「いや、えっと……おはようございます?」
露骨に怪訝な顔をしたのかもしれない。
わからん。誰だ。たぶん仕事関係。
外回りの営業をしているので、顔と名前の覚えは悪くないはずなのに、なんだか思い出せない。
たぶんこれあれだ、全力疾走のせい。酸素が脳まで回ってないやつ。
「Mコーポレーションって言えば分かる?」
「あっっ!!おはようございます!!」
そうだ、エムコ!担当先だ!
思い出した。この間の打ち合わせに同席していた人だわ。
「……すみません!ちょっと今、脳に……酸素が足りてなくて」
「見れば分かるよ。すごい勢いで走ってたもんね」
走ってボサボサになった頭を、手で撫でつける。
「岩瀬さん、この辺住んでるんだ?」
「そうなんですよ」
「へえ、意外と近かったんだな」
「……?」
「今まで会ったことないね。通勤時間が違うのかな」
「わたし普段電車なんで……しかも今日は寝坊で」
「ああ、なるほど」
アラームなんで鳴らなかった?あーもう全部お前のせいだぞスマホ!!
カバンからスマホを取り出すと電源が落ちていた。……うわ、電源落ちてらぁ……今日初めてスマホ見るね。そりゃアラーム鳴らないわ。
スマホの電源を入れ直しながらバスの窓を見ると、窓に自分の姿がうっすら映っている。
イヤー!!前髪死んでる!やばすぎる。デコ丸出しじゃん……はやく鏡を見て直したい。
一際大きいため息が出た。
*
最近は、本格的に身の回りが不便を感じなくなってきた。復興が進んでいる証拠だろう。
そう、なんといってもカレールーの存在だ。
スパイスをブレンドして作るカレーも嫌いではない。旧世界では、休みの日にあれこれ作ってみたことはある。
汁気の少ないパキスタン風チキンカレーが好きで、鶏肉をたくさん使って作ったりもした。
たまたま振る舞った友人たちにも好評だったが、しばらくあだ名がカレー屋になったのでそれっきり振る舞うのはやめた。
でもやっぱり“カレー食べたいなあ”で浮かぶのは、市販のカレールーで作った馴染みのある、あの味だろう。
にんじん、たまねぎ、ぶたにく、じゃがいも。金曜日。
金曜日はカレーだ。
そんなわけで仕事帰りにカレールーを調達すべく、スーパーに来た。
お目当てのカレールーを手に取り、ついでに肉も買おうと移動する最中、視界の端に見慣れた白菜が目に入った。
え、まって、いま白菜着た白衣が……ちがう、白衣を着た白菜が??え?スーパーだよ?スーパーに白菜。いやこれは合ってる。
そうじゃない、スーパーに千空さん??
「せっ!?千空さん?」
「あ?……花梨か」
スーパー来るんだ……石神千空。
スーパーで小麦粉買うんだ、石神千空。
クッキー?ケーキ?いや作るわけないか。絶対ないな。
わたしの視線に気付いたのか、千空さんが小麦粉の袋をパシリと叩いた。
「今度、ラボの一般公開あるからな」
「……一般公開でクッキーを焼く?」
「んなわけねえだろ。粉塵爆発だ」
「えっ、爆発!?小麦粉ですよ!?」
「条件揃や爆発すんぞ」
聞けば燃焼実験のデモに使うという。身近な爆発〜粉塵爆発が起きる条件〜なんとも派手そうなのに地味なサブタイトルだ。
春休みの子供たちは爆発とか好きだろうから大喜びだろう。ポーズ決めたヒーローの後ろもだいたい爆発だし。
ただ、わたしは爆発させるより粉を焼いて食べたい。
「千空さん自ら買い出しなんですね……」
「ちょうど手ぇ空いてたからな。行けるヤツが行く方が合理的だろ」
「というか、スーパーとか来るんですね」
「来るだろそりゃ。生鮮食品買うならコンビニよりこっちだ」
そう言いつつ、手に持ってるの小麦粉だけですけどね博士氏。
「夕飯とか買いに来たんじゃないんですか?」
「……あーもう、んな時間か」
「もう食べたんですか?」
「いやまだだな」
カゴの中のカレールーが、猛プッシュしてくる気がする。
そう、カレーなんだ。少量じゃ済まない。
せっかく作るならたくさん作りたい。でも1人で食べれる量なんて、たかが知れてる。
冷凍して味が落ちるのも悲しい。
そう、つまり、そういうことだ。そういうこと。
「……あの、カレー食びゃましゃんか」
噛んだ!!どうしてこう肝心なときに噛むのか!!
「……食びゃましゃんか?」
「いや消して、記憶から消して」
思わず顔を覆うと、ククク、と千空さんが堪えきれず声を上げて笑った。
うっわ、噛んだ瞬間変な顔してるなと思ったんだよね。笑うの堪えてたやつじゃん!忘れて!!忘れてくれ!!
「食う」
「いや、だからカレー……え?」
「お相伴にあずかるって言ったんだ」
そう言って、何事もなかったかのようにわたしの手からカゴをひょいと奪い、そのまま歩き出す。
「あとなに買うんだ、肉か?」
「えっ、あっ、はい!!」
慌ててその後を追いかける。
……食びゃましゃんか、は忘れてくれ。マジで。
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