前回までのあらすじ!!
初日の出 4時に起こされ 寒空の
科学の話は 記憶残らず
(花梨心の短歌)
昼まで寝て、お雑煮作って食べる予定だったのに、帰ってから結局寝れなくて、お雑煮の他にわざわざ追加で簡易おせちまで作った人の話する!?
誰だよ!!4時に起こしたの!!誰だよ4時に誘ったやつ!!
……ほんと、どういうこと??
冬編【3】朝会ったら渡す <1>
職場の先輩に渡すためのお祝いを買いに来た。
いつもの駅のふたつ手前で降りれば、駅前にRYUSUIの看板輝く大きな百貨店がある。旧世界同様、百貨店はちょっと良い品を買うには絶好の場所なことにかわりはなかった。
かわいらしい紙袋に入れてもらったプレゼントをぶら下げ、催事コーナーを歩くと、ガラスケースを構えるお店が、ところ狭しとひしめき合っていた。
ガラスケースのなかにはきらきらと輝くチョコレート。
あ、そうかもうすぐバレンタインか。
新世界でも、バレンタインにチョコレート文化は持ち越したらしい。
つやつや輝くチョコレートは、まるで宝石のようにガラスケースのなかを彩っていた。
そういえば、最近お菓子作ってないなあ。
ガラスケースの一つ、半分だけチョコレートがコーティングされた輪切りのオレンジが目に入った。
……オランジェット、今キミ、わたしと目があったよね?
当たり前だがオランジェットには目なんてない。でもこちらを見つめている気がする。
気がつくと、ガラスケースの前にしゃがみ込んでオランジェットを見つめ続けていた。
しびれを切らした店員さんが、御用入りはと、口を開けるその前に、勢いよく立ち上がりガラスケースに背を向けて歩き出す。
──そうだ!オランジェット作ろう!!
百貨店の地下ならば皮まで使える柑橘類くらい売っているだろう。オランジェット作るの旧世界ぶり!!ひさしぶりの製菓への期待で口元がニヤけるのを必死にこらえながら地下へ向かうエスカレーターに乗り込んだ。
オランジェット自体はそこまで難しくはない。ただ見た目と反して、猛烈に時間と手間がかかる。
最近はご無沙汰だったが、料理同様お菓子を作ることも好きだ。
作る過程も、過程の先にある美味しい瞬間も大好きなので、多少の手間も厭わない。
今から作れば、完成は3日後くらいかな。
カレンダーに視線が向く。
……あら偶然。よくわからないけどバレンタインデーの前日に完成するなあ。偶然だなあ。タイミングいいなあ。いやあ、誰にあげるとかないけどね。ないない。ない、うん。
思い返せば、バレンタインにチョコを特定の誰かに渡した記憶はない。
高1のとき、数人の友人と友チョコを交換した。何故かその味が噂になり、高2ではわたしの知らないところで整理券が発行され、ひと騒ぎ起こしてしまった。
案の定、高3は前年の騒ぎのせいでチョコ禁止。制作なし。
大学生になり出来た彼氏は甘いものが苦手だったので、チョコではなく、実用品をお互いに交換した。
社会人で引いた彼氏ガチャKKR(クソクソレア)村人Aは、チョコより酒だったので論外。
今回は皮のみを使う。
実の方はあとで果肉入りのゼリーをつくるのでラップに包んで冷蔵庫に入れた。
短冊状に切ったオレンジの皮を丁寧に下茹でして、更に砂糖を入れて煮込む。それを乾くまで干す。
甘すぎないほうがいいかな。
オレンジの苦味が残るくらいのほうが、コーヒーにも合いそうだ。
……いや、別に誰かの好みに合わせてるわけじゃないけど。
乾かしたオレンジの皮にグラニュー糖を纏わせたら、半分にチョコを浸して乾かす。
完成したオランジェットをひとつ食べてみる。
うん、やっぱりコーヒーに合いそう。お酒もいいかも。
我ながらよく出来た。
14日の朝は、少し早めに起きた。
なぜか仕事帰りにうっかり購入してしまったラッピング用の小箱に、丁寧にオランジェットを詰め込む。
いや、誰に渡すとかないから、自分のためだから。
オランジェットを作り始めた日から、よくわからない言い訳ばかりが頭の中をぐるぐるしていた。
……朝。朝会ったら渡す。
誰に、なにを、なんて言って?
オランジェットが詰め込まれた小さな小箱が、ずっと主張してくる。
言葉にしがたい気持ちが、胸の奥をぐちゃぐちゃに掻き回しているようだった。
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