前回までのあらすじ! 冬は鍋!!豆乳、えのき、白菜、豆腐、お肉!!ビール!そして世界を救った科学者!いや科学者煮込んでないよ!? うっかり誘って、そのまま鍋パになっちゃったけど、たったっ楽しかったっス! アザッス!残ったビール、もらっていいやつだったんですよね?って、もう飲んじゃったけど。 さて、年も明けましてお正月!昼まで寝て、それからお雑煮作ってたべるぞーーー!!

冬編【2】よじですよ?

けたたましい音を立ててスマホが鳴っている。 だれだ……こんな朝っぱらから電話してくるの……あー、せっかくのお正月なんだから昼まで寝かせて……。 美味しい日本酒を飲みながら、年越し番組を見て、さっき寝たばかりなのに、もう起こされた。頭が痛い気がする。 寝不足なのか二日酔いなのか原因がわからないが、がんがんする頭を押さえながら、画面も見ずに通話ボタンを押す。 「へい………」 掠れた声が出た。 『完全に寝てんな』 「いやそりゃ寝たのさっきだし」 聞き覚えのあるような、ないような?そんな声が受話器の向こうから流れてくる。 『どうせ夜中まで飲んでたんだろ』 「だって大晦日だもん夜ふかし……は?え?まって、誰?」 慌ててスマホの画面を見た。 ──通話中 石神千空 「せせせせせせせんくうさん!」 ヒッ!まってまってまって嘘だろ?誰?とか言っちゃったよ!!! 『あ?今気付いたのか』 特に気にする様子もなく千空さんが続ける。 『眠気覚ましに外行くぞ』 「え?今ですか」 『今』 壁に掛けられた時計を見る。 ……4時。 「よじですよ?」 『4時だな』 寝たの2時なんだけど。 『ボサ頭のままで構わねえ。10分待ってやっから、あったけえ格好だけしとけ』 そう言って通話がブツリと切れた。 「……よじなんだけど?」 どうやら叩き起こされ、選択肢すらないまま外へ放り出されるらしい。 しかたなく、もそもそと布団から這い出るのだった。 * 「……おはようございます?」 「あァ」 ゴンゴンと叩かれた扉の音を合図に、外へ出る。 仕事用ではない完全防寒目的のダウンに、マフラー、最近新調したばかりの手袋。 頭にもニット帽の完全防備スタイルのわたしに対して、千空さんはダウンジャケットに手袋程度だった。 眠い目をこすりつつ、千空さんの後ろを歩く。行き先も告げられずにエレベーターに乗り込むと千空さんが口を開いた。 「あー、予定あったか?」 「え?」 今聞くんかい。博士氏それは電話の時点で聞く話だよ。もう外出てきてるんだけど?? 「ないです。予定あったら2時まで飲んでません」 「それもそうか」 ポーンと甲高い音を立てエレベーターが到着する。ふたりで箱から降りてエントランスを抜けた。 「ていうか、どこ行くんですか?」 「あ?ラボ」 「……らぼ」 すこし先にあるやたら存在感のある白い建物を見つめた。 ラボの裏口に立つと、ドアの横に取り付けられた端末に千空さんがカードキーをかざす。 続いて、ピッピッと、端末に何かを入力すると、ガチャリと音を立てて裏口の鍵が解除された。 「あの、わたし部外者ですよ?」 ついてこい、と言われ置いていかれないよう小走りでついていく。 「気にすんな。どうせ移動だけだ」 「移動?」 「正確にはラボの屋上だな」 裏口入ってすぐ、明らかに関係者専用であろう、なんの装飾もない簡素なエレベーターに乗り込む。 ポーンと音を立てエレベーターを降りる。 千空さんが開けた重い扉の向こうには、先ほどまで歩いていた外と同じ、キンキンに冷えた真っ暗な世界が広がっていた。 屋上は広かった。なにもない。ベンチが数脚フェンスに向かって置かれているだけ。 「さむ……」 広さよりも、殺風景さよりも、いまは何よりも寒いが先にくる。 上半身は完璧だがそういえば下半身はごく普通のデニムのボトムスを履いただけだ。 下半身への備えが足りなすぎた。いや何を履けば、中にレギンスくらい履いてくれば良かったかも。 いや2時寝4時起きの頭に、防寒しっかり!なんて言われたところでダウンくらいしか思いつくわけないんだからしょうがない。 いっそスキーウェア着てこいとか言われたほうが、上下防寒のイメージがしやすかった。 まあでも、正月早々スキーウェア着て、闊歩する女もアレか。 この暗闇ならワンチャンあり?……あ!そもそもスキーウェア持ってない!だめだ眠くて頭が回ってない。 「……で、ここでなにするんですか?」 「見りゃ分かる」 「真っ暗なんでなんにも見えませんけど」 「あと少し待て」 千空さんはそう言うと、フェンスの向こうへ視線を向けた。 つられて同じ方向を見る。 「……もしかして、初日の出?」 「そのためにテメーを朝っぱらから叩き起こしたんだろ」 「聞いてないですよ!?」 「正月の早朝だぞ?だいたい分かんだろ」 こちとら寝不足&アルコール入りの低回転脳ですよ!! 「いっや、わっかんねえーー!……じゃなくて、わかんないですよ!」 「別に言い直す必要ねえだろ」 「っいやっっ、そういうわけには!」 千空さんが鼻で笑い、ポケットから出したカイロをポイと投げてくる。 「ほら、使え」 慌てて受け取ったカイロの温かさが冷え始めた指先に染みた。 わたしはそれを両手で包み込みながら、千空さんと同じ方向へ視線を向けた。 薄暗かった空がゆっくりと白んできた。空と地の境目に眩しいほどの光が差し込まれる。 夜が明ける。 「なんか、日の出ってまともに見たことないかもです。初日の出は初めてかも」 「旧世界じゃ田舎じゃねえかぎり平地はビル群だからな。見るなら山にでも登らねえと無理だっただろ」 そもそも夜と朝の境目なんて、起きていたことがない。 「千空さんは、初日の出いつも見てるんですか?」 「……石神村の連中と見てからは、な」 朝日のせいか、遠くを見るように千空さんが目を細める。 これ以上触れないほうが良い気がして、わたしも遠くの朝日に視線を戻した。 「……あけましておめでとうございます。ですね」 「そうだな」 白い息を吐き出しながら、千空さんが話し出した。 「日の出っつっても、太陽が地平線から完全に出た瞬間じゃねえぞ」 「……違うんですか」 こちらを見て、楽しそうに口角を上げる。 「太陽の上端が地平線に掛かった時点で日の出だ。しかも大気の屈折で、実際の太陽の位置より浮いて見えてる」 この人ほんとに科学的な話になると生き生きしてくるな。 あーやばい、急に眠気がきた。 「……つまり?」 「今見えてる太陽は、幾何学的にはまだ地平線の下だ」 「…………へー」 貴重な石神千空博士の日の出講義なのに、頭に入らない。 「絶対分かってねえだろ」 「太陽がいないのにいる……」 「んなとこだな」 だめだ、もう限界だ。 初日の出は無事見られた。ミッションクリアだろう。 帰って寝たい。 「……千空さん、あとでお礼のお雑煮作りますんで、とりあえず帰って良いですか。眠いです」 「だろうな。もう半分寝てんじゃねえか」 呆れたような表情を横目に、わたしは千空さんの返事も聞かずに屋上を後にする。 後ろを歩いていた千空さんに「歩きながら寝んな!」と背中を叩かれて社宅へと戻った。 エントランスに着いた瞬間、回らない頭にふと疑問が浮かぶ。 「……そういえば千空さん」 「あ?」 「なんでわたし誘ったんですか?」 千空さんは一度目を瞬かせると、何を今さらとでも言いたげに眉を寄せた。 「誘いてえから誘った。それ以外になんかあんのか」 「…………」 急に眠気が覚めた。 「なんだ」 4時ですよ?そう言いかけて、やっぱりやめた。 「なんでもないです」 いや、ほんと、4時ですよ?
2026/07/09

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