前回までのあらすじ! ラボの社食で食べた定食、ちょっと色々あってなかなか喉を通らなかったんだけど、デザートの苺はしっかり食べました!というか、甘すぎて一気に意識が苺に向いちゃったやつ!! すっごい大きい!すっごい甘い!!ラボで作ってるんだって!?えっ枝豆のおじさんの魔改造苺ってこと!?うっそ!!すごい!!魔改造すごい!!買います!売って!!

春編【3】テメー、社用携帯どうした <1>

憂鬱だ。憂鬱すぎる。 ラボの一般公開の翌日、わたしはトボトボと重い足取りで出社した。 『端折るなよ』 千空さんにそう言われてしまったから、端折るわけにもいかない。 上司への相談。事情を知っている千空さんへの説明。どっちの意味で端折るなと言ったのかは分からない。ただ、どっちの意味も含めてあるようにも聞こえた。 あのあとの社食では、デザートの苺の出どころを教えてもらったくらいで、会話という会話はなかった。 まあわたしが微妙な顔をしていたせいだと思うけど。人の多い社食で、千空さんに詰められることがなくて安心した。 確実に、後で詰められそうな気がするけども。 「おはよございます……」 「おはよ〜」 職場では同僚たちが、コーヒー片手に雑談していた。朝礼前のいつもの光景だ。お目当ての人も雑談たまり場のそこに居る。 「課長、朝礼のあとちょっと良いですか?」 「なに?昨日一日外まわりで、大口取れた?」 コーヒーをひとくち飲んで、課長がニッコリと笑う。 えええ、なにその笑顔。どっち?どっち??ご機嫌なの?それとも昨日の外まわりの件バレてる??サボ……いや営業!営業だから!ツッコまれれば真摯に謝りますよ!!そんな日もある! いやいや、でも今はそっちよりも社用携帯の件だ。 「いや、ちょっと……」 微妙な反応を汲んでくれたのか、課長はすぐに表情を変えた。 「……あとで会議室行こうか」 「はい」 同僚たちの、不思議そうな視線が刺さった。 * 社用携帯にかかってくる無言電話の件を課長に報告する。 課長は長めに息を吸うと、大きく吐き出しながら天井を見上げた。 「……いつから?」 「ここひと月くらいなんですけど……最初は週に数回程度だったので、間違い電話とか、相手の誤作動かなって思ってて……」 「それが?」 「ここ二週間くらい、急に増えました」 業務中は一日に何度も掛かってくる日もあった。出ても無言。切れるだけ。 番号は毎回違う。 千空さんとカレーを食べた日を境に、掛かってくる時間もおかしくなった。 業務時間だけだったはずが、深夜や早朝にも着信が残るようになった。 千空さんに「勤務時間外は電源を切れ」と言われてからはそうしていたけれど、うっかりミュートのまま忘れた日は、朝起きると着信履歴が5、6件近く並んでいたこともある。 「業務に支障は?」 「……正直あります」 業務中に何度も無言電話が掛かってくるせいで、登録のない番号だとどれが取引先で、どれが無言電話なのか分からない。 電話を取るたび、一瞬ためらってしまう。 課長はゆっくり頷いた。 「一度端末を回収しよう。番号も変える」 「はい」 「あとで端末と名刺、持ってきて。新しい番号が発行されるまで、担当先には会社の代表番号へ掛けてもらうよう案内しておいて」 「ありがとうございます」 ペコリと頭を下げると、課長が会議室の入り口へと歩き出す。 「岩瀬さん抱え込みがちだからなあ。俺に限らずだけど、もっと誰かに相談していいと思うよ」 「え?」 「岩瀬さん、こういうの自分から相談するタイプじゃないよね」 結構見てるなこの人。苦笑するしかない。 「誰かに『相談しろ』って背中押された?」 「……はい」 「その人に感謝しないとな。君も、俺もね」 課長に続いて会議室を出た。 自分の席に戻って、端末と名刺を用意していると同僚のひとりが手元を覗き込んできた。 「……なに!?どうしたの?まさか会社辞める??」 その声に、近くの席の人たちまで一斉にこちらを向いた。 「え、辞めるの?」 「うそ!!ダメダメ!花梨ちゃん辞めたら困るんだけど!!」 「いやいや!そうじゃなくてですね……」 慌てて否定すると同僚のひとりが「じゃあなんで端末と名刺用意してるの?」と勢いよく聞いてきた。 仕方なく課長に相談した内容を同僚たちにも話すと、悲鳴のようなざわめきがフロアで起きる。 「やだ!なんでもっと早く言わないの!」 「岩瀬それはやべえって」 「いやあ……」 思ったより大騒ぎになってしまった。せっかく課長と別室で話したのに意味ないな。 「……ストーカーとか?」 同僚のひとりがポツリと言う。 「……」 ストーカー。 その単語にビクリと身体が反応する。 同僚たちには村人Aの件は一切伝えていない。村人A事件の怪我も、転んだで乗り切ったのだ。 「あるかも……花梨ちゃんいつもニコニコしてるし」 「岩瀬って、彼氏居るんだっけ?」 「ええっと……」 彼氏居ないけど、居ないと断言するのもなあ。 「いません、たぶん……」 曖昧な返事に、すかさず同僚にツッコまれる。 「ほら!また誤魔化した!それ花梨ちゃんの悪いクセ!」 えええ、課長に同僚に、千空さんもそうだけど、わたしより周りのみんなのほうが、わたしのこと知ってない? 「彼氏、居るのか居ないのか言わなくていいけど、少なくともここ以外の人には『居る』って断言したほうがいいよ」 「え?」 「あー、フリーだって思われると余計に付け込まれるもんね」 居ないものを居るというのか。複雑だ。 「……アレ?そういえばちょっと前に岩瀬に彼氏いるのか聞かれたな?」 「は???」 ポリポリと頭を掻く同僚を、全員が一斉に見つめた。 「いや、さすがにプライベートなことなんで知らないッスね。って答えたけどさ……アレ、誰だったかな」 「おまえは!!それを思い出すんだよ!!」 「ちょっと前なんで……」 結局同僚の記憶力が冴えることもなく。 その日は社用携帯もないこともあり、内勤で一日を終えた。 2page >>>

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