前回までのあらすじ!! 無言電話地獄から解放されたわたしは、春キャベツを堪能することとなる! ちなみに千空さんと食べた蒸し鍋には、まるまる一玉使ったので、次の日にすぐ追い春キャベツをした!! 春キャベツとしらすのペペロンチーノ、春キャベツのお好み焼き、春キャベツのロールキャベツ、春キャベツって単語が付くだけでなんでも美味しそうだなあ!! 春キャベツの千切り。……これはただの千切りキャベツかも。

春編【4】彼女居ますか? <1>

疲れた。長い一日だった。 明日は大きめの会場で展示会だというのに、滑り込みで届いたパンフレットに、どデカい校正ミスが発覚。 社員総出で訂正シールを貼る作業をしていた。 子供のいる人は早めに帰って、結局残ったのは独身たちだけ。 黙々と修正箇所へシールを貼り続ける。夕飯も食べず、水分も取らず、そりゃヘロヘロなわけだ。 なんとか終電で帰れただけマシかもしれない。 材料は冷蔵庫にあるが、もう作る気力がない。コンビニおにぎりでも、カップ麺でも、なんでもいいからとりあえずお腹に入れて、お風呂に入りたい。 どろどろの顔をどうにかしたい……。 光に寄せられるようにふらふらと駅前のコンビニへ入った。 軽快な音が鳴り自動ドアが開く。まっすぐに進んだ先にあるショーケースには時間の割にまだたくさんのおにぎりが並んで見えた。 ああ、おにぎり……よかった、こんな時間なのに結構種類がある。 うめ、カリカリうめ、しば漬け、ゆかり……ん?まてまて?うめ系の酸っぱいのしか無いな? ツナとか鮭とかないの?え?もしかしてすっぱいだけだけ大量に売れ残ってる? それともここのオーナーうめ系好きなの?? 躊躇いつつもなんでもいいか、と手を伸ばそうとしたその時、後ろからトントンと肩を叩かれる。 「こんばんは」 勢いよく後ろを振り返ると、あの、電車でよく会うMコーポレーション、通称Mコの人だった。 名前は、まだ名刺を調べてないのでわからない。 「え……こんばん、は」 伸ばしかけた手を一度引く。 え、こんな時間に?こんなところで? 先日の違和感が瞬時に思い出されほんの少し身を固くする。 「残業帰りで、お腹すいたなって寄ったら花梨ちゃんいるから、びっくりした。どうしたの?今帰り?」 ぞわりと背中が粟立つ。 今、この人、わたしのこと名前で呼んだ?この間まで岩瀬さんって呼んでなかった?なに?急になに? 「…っ!すみませんっ、名前呼びは、ちょっと……」 「え?あっ、ごめんごめんつい!大丈夫、仕事ではちゃんと岩瀬さんって呼ぶよ!」 悪びれることもなくニッコリと笑いながらMコの人がわたしの横に立ち、おにぎりを手に取っている。 うめづくしから、うめ買うんだMコの人……だめだ、観察してる場合ではない。 じり、じりと静かに距離を取る。 「こんな時間に会うなんてね。花梨ちゃんも残業だったの?」 なんだろう、嫌な予感がする。やばい。これたぶん、正直に答えてはいけないやつ。 「……いえ、待ち合わせ、です」 そんな待ち合わせあるわけ無い。 でも、そうでも言わないと、何かと理由をつけて家まで着いてくやつだこれ。 しってる!これ知ってるパターン! 「友達?もう時間も遅いし、女の子だけじゃ心配でしょ?付き合うよ」 「いえ、えっと、彼氏です」 「……え?」 居ない!彼氏なんか居ない!! でも、これはちょっとやばい。頭の中の警鐘がガンガン鳴っている。 「……彼氏、居るの?」 さっきまでの軽口とは違う、低い声だった。 笑顔が消え、こちらを刺すように見つめてくる。 あれ。……こわい? 「っ、はい」 「……」 背中を冷や汗が伝う。 でもそんな違和感は一瞬で、Мコの人はパッと表情を笑顔に戻す。 「そうなんだ」 村人Aとはまったく違う種類のやばい方向じゃないこれ?あいつはまだキレるというわかりやすい動作があったから構えられた。 この人のことよくわからないせいもあるかもだけど、ちょっとなんか得体のしれないやつ。 同僚たちに言われた居なくても居ると言え作戦を決行するしかない。 引け!引いてくれ!!! 彼氏なら大丈夫だね!じゃあね!で帰ってくれ!! 「……ダメな彼氏だね。こんな遅い時間に待ち合わせなんて」 あっ、だめだった。 どうしょう。1ミリも引いてない。 「そんな彼氏やめちゃいなよ」 「……!?」 やばい。やばいやばい。 なんで、なんであなたがわたしの彼氏を否定するの?? いや否定されてもそもそも居ないんだけど!不在なんだけどさ! でもこれを反論したりして刺激したらまずい。 コンビニのレジをチラリと見る。 うーん!だいぶお年を召されたおじいちゃんふたり!!助けを求めても無理そう!! ほかに見える範囲にお客さんなし!! 詰んだ。外部に助け求めるの無理ゲーすぎる。 ──ふと、ポケットのスマホがぶるりと震えた気がした。 あわててポケットからスマホを出す。 いや、何も届いてない。通知もない。でも、でも絶対なんかいま震えた気がする。 細い糸が垂れてきた気がした。これだ。これしかない。 「っ!アーーー!メ、メッセきてる!えええー、ば、ば場所変更?しょうがないなあ、もう!」 わざとらしい、わざとらしすぎる。 「じゃ、じゃあ!……失礼します!おやすみなさいっ」 脇をすり抜け大急ぎでコンビニを出た。 腕を掴まれることも、止められることもなかった。 走りながら振り返る。Mコの人はコンビニの前に立ったまま、こちらを見ていた。追ってくる様子はなさそうだ。 こわいこわいこわい!! 心のなかで叫びながら、必死に光の強い駅前へと走り続けた。 2page >>>

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