前回までのあらすじ!! 展示会前日にパンフレットの校正ミスが発覚!社員総出で修正シールを貼ることに! 子どものいる人は続々と帰宅し、最後まで残ったのは独身5人衆 ……と思ったら、ひとり帰った……だと? えっ!?今帰ったあの人子供居たっけ??いや、居ないって!!結婚すらしてないよ!! この間「おれ、婚活なんてもういい。3Dアイドルのぬんぬんと結婚する」って言ってたもん!!絶対サボり!連れ戻せええ!!

春編【5】逐一報告してこい <1>

深夜のファミレスは週ナカのわりに賑わっていた。 ざわざわとした店内でわたしと千空さんが座っている席だけは、しんと静まり返っているのだが。 「……テメー、なに急に言い出してんだ」 呆れたような、驚いたような、そんな目で千空さんがこちらを見つめる。 まあ、そうなる。ですよね。わかる、わかるよ博士氏。わたしも言っちまったぜ!感すごいんだよ。分かってくれよ。 「ええっと、偽装彼氏のお願いです」 「んな、回覧版に挟まってそうな言い方しなくても、それは分かるっつーの」 グラスの水を一気に煽ると、千空さんが席を立ちおかわりの水を汲んでくる。 「なにがどうなって偽装彼氏だ。経過を言え経過を」 そのまま、ドスっと音を立てて椅子に座る。 職場の同僚たちに用心のため彼氏が居る設定にしておけと言われたこと。Mコの人から離れるために咄嗟に彼氏と待ち合わせだと言ったこと。 「彼氏居るのかと聞かれて、居ないけど居ると言いました」 「……」 「こんなこと頼むのは心苦しいんですけど、しばらくの間でいいのでフリだけでもしてもらえれば……」 言葉がしりすぼみになって消えていく。 本当に、改めて何を言っているんだ。 相手はあの石神千空だぞ。いくら同じ社宅に住んでいて、最近ごはん食べたり、連絡を取り合ったり、すこし友人に近いことが増えたからと言ってこんなお願いをするなんて、どうかしてる。 千空さんは指を2本立てて、めっちゃ難しい顔してる。こんな事情で頼んだら断りにくいに決まってる。 これは提案した側から引かないとだめだよなあ。すんません博士氏…… 「やっぱり……」 「最適解はそこだな」 言葉が被る。 「え?今なんて?」 「偽装彼氏、受けてやるよ」 は?今、受けるって言った?え?偽装彼氏なんてふざけたお願いを? ……いやいや冗談キツイって博士氏! そんな?世界の偉人が?こんな?一般人と?付き合う?偽装だとはいえ? 「いやいやいやいやいや!!ないでしょ!?何言ってんですか!!」 「テメーが言ったんだろうが」 「言いましたけど!?普通、受理します??」 「したが?」 耳に小指をつっこみ、心底どうでよさそうにこちらを見ている。 「おっかしいでしょ!?あなた自分のこと誰だかわかってんですか!?」 「石神千空」 その言葉に思わず立ち上がる。 「そうですよ!!石神千空ですよ!?人類復活の立役者で!宇宙に行って!科学の最高峰に立ってて!世界中から注目されてて!ラボの一般公開なんて人だらけで!」 一気にまくし立てる。 「そんな人が!そんな人が一般人のわたしと偽装とはいえ彼氏になるとか、おかしいでしょ!?ニュースになりますよ!?わたし炎上しますよ!?世界中から『誰だお前』って言われますよ!?」 肩で息をする。 「……はぁっ、はっ……」 息が続かない。 勢いだけで一気に喋ったせいで、呼吸が追いつかなくなっていた。 そうだ、そんな人なんだ。 近所に住んでる、やたら科学に詳しい気さくな青年。でも、それってわたしから見えてる姿だ。 外から見える姿は、先日の一般公開のような博士の姿。 「石神千空に偽装彼氏頼むなんて、どうかしてるんですよ……」 そう呟くと、張り詰めていた糸が切れたように膝から力が抜けた。 ストン、と椅子へ座り込む。 「テメーは、俺が石神千空だから偽装彼氏頼んだのか」 「ちがいます」 即答する。 そんなわけない。むしろ石神千空だって、ちゃんと頭が認識してたら絶対に頼んでなかった。 石神千空に頼めるわけない。 ……結果的に頼んでることになるけど。 「なら別に問題ねえだろ」 「え?」 「石神千空だから偽装彼氏を依頼したんじゃねえなら、それはただの石神千空だろ」 意味がわからない。 石神千空は石神千空じゃないの? 「テメーは俺のこと、今までなんて呼んでんだよ」 「……千空さん?」 「あぁ、それだろ。石神千空でも石神氏でも、千空殿でもねえんじゃねえかよ」 千空さんが喋りながら、手元のタッチパネルを再び操作し始める。 「俺も、テメーが岩瀬花梨だから受理してんだわ」 「え?」 「こっちにも選ぶ権利くらいあんだろ」 ほどなくして、オマタセシマシタニャ〜と気の抜けた声を出しながら、ネコの配膳ロボットがやって来た。 配膳ロボットのぎらぎらと光る棚から、千空さんが小さなパフェを取り出す。 「ほら食え」 小さな器に、これでもかと盛られた生クリーム、上から惜しげもなく掛けられたチョコソース。 たぶん下にはバニラアイスまで仕込んであるはず。 「……深夜にパフェ」 「背徳ついでだ」 ひとくち食べる。甘い。甘すぎて泣けてきた。 「ほんとに受けてくれるんですか」 「ああ」 ズルズルと鼻をすすりながらパフェを掬う。 「……よろしくお願いします」 「ああ」 パフェをもうひとくち食べる。 甘い。 今度こそ、本当に泣いてしまった。 2page >>>

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