前回までのあらすじ!! 美味しいミニトマトはちみつ漬けの作り方!ミニトマトを用意します。お(中略)べます。 ミニトマトはベーコンで巻いて串に刺して焼くのもビールに合うんだよね。BBQしたいなぁ。 千空さんにタッパーで渡したはちみつ漬けは食べてもらえたのか!?真実は!ひとつかふたつ!!

【7】話になんねえな

郵便受けの中に入っているチラシを、ピザは残して捨てる。 チラシお断りのシールを貼ろうかいつも悩むが、それを貼るとこのピザのチラシも届かなくなる。それは困る。 食べ物以外お断りにする? クーポンが付いていることを確認してピザのチラシをカバンにねじ込んだ。 階段をコツコツと音を立てながら登ればすぐにわたしの部屋がある。 いつも通りカバンから鍵を取り出し、挿し込んだ。 鍵を回す。 ……あれ? なんかおかしい。 いや、なんか程度の生半可なもんじゃない。 開いてる。 鍵が。 わたしのアパートの鍵が開いている。 いつも通り鍵を挿して回した。ドアノブを掴んだがガチという音のみで下までノブは下がらず、鍵が開いていないことに気付いた。つまり、開いていたのだ。 朝締め忘れた?いやない。それはない。家を出る前に、必ずドアノブを掴んで鍵がちゃんと掛かっているか確認するのがルーティンだ。 しかも石化前どころか、家の鍵を持たされるようになった中学生からの習慣だ。抜けようがない。 まずい。これはまずいぞ。 確実にいる。 しかも何も考えずに自分の鍵を差して回してしまった。 中からは確実に鍵を回す音が聞こえているはず。 逃げなければ、そう思うのに足がすくんで動けない。 ガチャリと内側から音がした。 ほんの少しのキィという音のあとに、中から男が顔を覗かせる。 「よお、花梨。待ちくたびれたぞ」 どうして、なんで、聞きたいことや言いたいこともたくさんあったが、足を一歩後ろに引くことだけで精一杯。 「花梨?」 「……っ!!!」 手に持ったカバンを男めがけて投げつけた。 「いってぇ!……ンにすんだこのクソアマ!!」 財布も、お気に入りのハンカチも、書きやすくて何本も買ったボールペンも。音質にこだわって買ったワイヤレスイヤホンも。カバンの中身がバラバラと音を立てて飛び散った。 逃げなければ。 とにかくここから逃げなければ。 固まっていた足がようやく動き出し、無我夢中で階段を駆け下りる。 どこに逃げるのか、どうすればいいのか何もわからなかった。だが、とにかくここからだけは離れないと。 「花梨!」 やばいもう追いついてきた。 普段あんなにやる気なし、みたいなヤツなのにこういうときだけやたら足が速い。 アパート前の道を抜け、いつもの通勤路に入ったあたりで服を掴まれた。 まずい。 そう思うと同時に足がもつれ、そのままアスファルトに倒れこむ。 靴がどこかへ飛んでいくのが、スローモーションのように見えた。次の瞬間、頬に、手に、膝に、焼けるような強烈な痛みが走る。 「待ってたんだぞ?逃げんなよ」 髪を掴まれ上を向かされた。 「……なんで……なんで鍵?」 「あ?作ったに決まってんだろ」 「なんで……」 「オメー、ケーサツになんか言ったろ?特定すんのに時間かかりまくったわ」 はあ、と大きくため息を付いた男がにやりと笑う。 「まー、これで?また一緒だな?」 あーあ。だめか。石化で人生やり直せたと思ったのに。結局、また同じところまで戻ってきた。 彼氏ガチャは石化前から天井数値持ち越しのうえで、クソすぎるSSRをまた引いた。 涙すら出ないや。 「テメー、なにやってんだ」 低い声だった。 「あっれ、アンタどっかで見たな?」 声の方に視線を向ける。 「……千空さん」 トレードマークの赤マントに白衣も着ている。博士モードだ。 走ったのだろうか。肩で息をしている。科学者も走るんだなあ。速いの?遅いの? まあ、あの細さだからなあ、遅そうだよなあ……いや、これで速かったらごめんね博士氏。 「離せ……」 「思い出した!石神博士様じゃん。サインくださーい」 「そいつ離せよ」 「なんで?ただの痴話喧嘩だよ。アンタ関係ねえじゃん」 「元カレ現ストーカーだろうが」 「あー!アンタ、この間の赤の他人か!ウケる」 「話になんねえな」 髪はやっと離されたが、何故か男はわたしの背に腰を下ろした。 掴まれていた髪が痛い。頬も、手も、膝も。そして背中も。どこもかしこも痛い。 「あー、コハクこっちだ。見つけた。すぐ来い」 千空さんは、男のことは無視してスマホで通話している。 コハクさん?いくら警官だとは言っても相手は男だ。あんな華奢な女性では太刀打ちできるはずがない。 そう、思っていたんですがね。 「花梨!頭を下げていろ!!」 どこからともなく飛んできたコハクさんの声に、慌てて頭を下げた直後、背中にあった重しが一気に消える。 「ウゲッォ」 男が妙な声を上げ、直後ぐしゃりと妙な音がした。 なんの音だろう、気になる。いやでも、見ないほうが良さそう。 うん。なんかわからんけど、たぶん、そう。 遠くから、千空!!捕まえたぞ!とコハクさんの誇らしげな声が聞こえる。 わからんけど、たぶん、助かった。 絶望ルート脱した。それだけはわかる。よかった。 アスファルトに突っ伏したまま、わたしは大きく安堵のため息を付いた。 靴音がゆっくりと近付いてくる。 ひとつ、またひとつ。 すぐ横で止まった。 「花梨……生きてっか?」 見上げれば、千空さんはまだ少し肩で息をしている。あんなふうに息を切らしているのは初めて見た。 「……なんとか生きてます」 もう駄目だって思った。それでも、まだここにいる。 わたしはへにゃりと笑う。 助かった。 その事実だけが、ゆっくりと胸の奥へ染み込んでいった。

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